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それからほどなくして街につく。
護衛達は報酬を貰うと、
そそくさと立ち去っていった。
「まさか、君だけじゃなく…お仲間の方々までお強いとは…驚いてしまったよ」
「へへっ!」
ジンは自慢気にしているが…
エルナに冷たい目で見られてしまい、
すぐにシュンとなった。
「君達さえよければ、このまま護衛をお願いしたいんだが…どうだろうか?」
「…マイルさんは何処へ行かれるのですか?」
「このまま帝国領に帰ろうと思っているんだ」
「…帝国ですか」
王国の街を巡ってきたが、
ジンに帝国の街を見せるのも、
経験になるかもしれない。
「…ジンは行きたいですか?」
「んー?俺は王国とか帝国とか…よくわかんねぇけど、行ったことないとこには行ってみたいかな?」
「…そうですか。でしたら、マイルさん…お引き受けしましょう」
「そうか!ありがとう!また、君と一緒に居られると思うと嬉しいよ!そうだ!今日はこの街で過ごすだろう?私が宿を取るから、酒を飲もうじゃないか!」
「…よろしいのですか?」
「もちろんだとも!」
マイルさんと一緒に宿へと向かう。
「いいなぁ〜…」
「子供はまだ飲めないわよ?」
「そういう姉ちゃんも飲んでねぇじゃん!」
「あのね…私はお酒が嫌いなの…アンタと一緒にしないでくれるかしら?」
「え〜?そう言ってるけどさぁ…本当は飲めないだけじゃねぇの?」
「そうね。飲めないだけかもしれないわね…」
エルナがジンの相手をしてくれている。
二人とも果実を絞った飲み物を飲んでいる。
「私達だけ…なんだか悪いね」
「…マイルさんは気にされないでください」
「…えっと、ジンくんと…」
「…エルナです」
「そうか!エルナさんか…エルナさんはお酒が苦手だったんだね…申し訳ないことをした…」
「…いえ、彼女も楽しそうにしていますので…マイルさんは気にされなくても大丈夫ですよ」
「そうかい?」
「…はい」
僕はマイルさんと一緒に酒を飲んで過ごした。
「やっぱり、馬車だと早いんだなっ!」
ジンは馬車の中で嬉しそうに声を上げた。
「うるさいわね…少しは黙れないのかしら?何?黙ったら死ぬの?だったら死になさい」
「うわぁ…なんか姉ちゃんがコエーこと言ってるんだけど…」
「怖い?何が怖いのかしら?私は本当のことを言っているだけなのだけど?」
二人の会話を聞きながら、
マイルさんは苦笑していた。
「二人は…仲が…い、良いのかな?」
「…いつも通りですよ。気にされないでください」
「そ、そうかい?何だか物騒な言葉が聞こえるんだけどね…」
苦笑しながらも馬車を動かす。
魔物と遭遇すれば、
エルナとジンが倒し、
日が落ちれば二人は模擬戦をする。
いつもと変わらない日々だ。
「…こうして見ると…エルナさんは本当にお強いんだね」
「…そうですね」
「いや…疑っていた訳じゃないんだよ?ただ…ここまで強いとは…思っていなかったんだ…」
ジンは何度も立ち上がり向かっていくが、
それを何度も叩き潰す。
手加減をしていても圧倒的だ。
「…エルナ」
「…そうね。はい、じゃあ今日はここまでよ」
「くっそぉー!今日も全然、ダメだったっ!」
ジンは寝転がりながら、大きな声を出した。
「当たり前でしょ?アンタなんか全然、強くないのよ?わかってる?雑魚を倒したぐらいで、強くなったなんて勘違いしてたんじゃないでしょうね?アンタなんか雑魚を卒業する手前にもなってないわ」
「い、言い過ぎだろっ!俺だってさ!毎日、毎日頑張ってるじゃん!」
「頑張っていたら何なのかしら?」
「が、頑張ってるから…それなりにさ…」
「アンタが目指してるのはそれなりなの?だったらそれなりに頑張って、そのまま死ねばいいわ」
「…ぬー」
ジンは不貞腐れてしまった。
「…ジンは成長していますよ」
「…何か…はぐらかされてる気分」
「…そうですか?」
「でも、兄ちゃんがそう言ってくれるなら…そう…なんだよな!うん!俺、頑張る!」
ジンは元気になると、お腹が空いたと言った。
「食事にしようか」
マイルさんは僕たちの食事も用意してくれた。
「私たちもいただいていいのかしら?」
「もちろんだよ。その為に多めに用意してあるからね」
「そう…なら、ありがたくいただくわ」
「やったー!腹減ったぁー!」
「…ジン。食べ過ぎないでくださいね」
「ははは、気にしなくてもいいよ。いっぱい食べておくれ」
「…ジンが食べ過ぎましたら、後で食糧をお分けしますね」
「ははは、本当に気にしないでくれ。さぁ、食べようか」
案の定、ジンは食べ過ぎてしまった。
マイルさんはジンの空腹を、
甘く見ていたのだ…