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王都から離れて五つほど街を超えた。
あれからジンはさらに強くなり、
剥ぎ取りだって出来るようになった。
「兄ちゃん!剥ぎ取り終わったぜ!」
「…お疲れ様です」
もう僕が戦わなくとも、
エルナとジンがいれば、
それなりに魔物を倒すことができる。
王都での経験を経て、ジンは成長した。
「大丈夫すか?」
「あ、ああ、すまないな」
困っている人を見かけたら助ける。
それは変わっていない。
だが…
「へへへへ!騙されたなっ!」
「おっと!へへっ!んなこと、わかってんよ!」
「な、何っ!?ぐわぁぁぁあああ!」
騙されることも少なくなった。
「兄ちゃん!こいつはここに放置する?」
「…はぁ、アンタね…次の街までソイツを担いで行くのかしら?放置するぐらいなら殺しなさい」
「だってさ〜…殺したくはねぇじゃん!」
「どうせ、放置したって魔物に殺されるのよ?同じことじゃない…」
「えー…次に目を覚ましたら、いい奴になってたりして!」
「そんなことあり得ないわ…貴方もそう思うでしょ?」
「…そうですね。ですが、決めるのはジンです」
「わかった!じゃあ、ほっとくわ!」
「…それでいいなら、いいんじゃない?どうせ魔物に殺されるでしょうしね…」
ジンは気絶した彼を、
そのまま寝かせたままにした。
そのまま街へと向かっていると、
後ろから馬車が走ってきた。
道を開けて、先に行かせようとしたのだが…
「っ!君っ!久しぶりだね!生きてたんだね!」
馬車の方から声をかけられてしまった。
「おいっ!いきなり止まんなよっ!」
「そうですよ!ビックリするじゃないですか!」
「す、すまない…彼は知り合いなんだ」
馬車から護衛を連れて、降りてきた。
顔を見るとマイルさんだった。
「…マイルさんじゃないですか。お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだね。君にもお仲間が出来たようで、嬉しいよ」
エルナとジンを見て、マイルさんは微笑んだ。
「…今度はちゃんと護衛の方を連れているのですね」
「ああ、そうだね。あの時は散々だったよ…君に助けてもらえなかったらと考えるだけで、ゾッとしてしまうよ」
「マイルさんよ〜。早く行こうぜ!」
「ああ、すまない!もう少し待ってくれ!…君たちは、そこの街へ向かってるところなのかい?」
「…そうですね」
「それなら、一緒に乗って行かないかい?」
「…いいのですか?」
「もちろんだよ!あの時の恩はまだ返せてないからね!これだけで返せるとも思ってないがね」
マイルさんはそう言って、笑った。
「なぁ、兄ちゃん?この人だれ?」
「…マイルさんですよ。行商をしている方です」
「へー、貴方が助けてあげた人なのね」
「…たまたま…そうなっただけですよ」
「そのおかげで私は今、生きているんだけどね」
「マイルさん!俺たちも馬車に乗せてくれるんすか?」
「もちろんだよ!彼のお仲間なんだろう?」
「俺って、兄ちゃんの仲間なの?」
「…まぁ、そうとも言えるかもしれませんね」
「そうなんだ!じゃあ、仲間っす!」
「それじゃあ、乗ってくれ!」
マイルさんはそう言ってくれたが…
「おいおい!マイルさん!ちょっと、待ってくれよ!それじゃ依頼と話が変わっちまうじゃねぇか!」
「そうですよ!護衛対象はマイルさんだけでしたよね?護衛対象を増やされても困ります!」
「ああ、彼らは護衛する必要はないよ…」
「は?何言ってんだよっ!こんなヒョロイ兄ちゃんと女と子供じゃねぇかっ!」
「そうですよ!俺達はマイルさん一人だけなので護衛を引き受けたんですよ!」
「だから、彼らを護衛する必要はないよ。それでも、無理だと言うのなら…護衛はここまででかまわない」
「っな!」「えっ!?」
護衛の二人は驚いた声を出した。
「すまない。君にまた、護衛をお願いできないかな?」
「…彼らはいいのですか?」
「私にとっては命の恩人の方が大切でね。彼らがこれ以上、護衛が出来ないと言うのなら仕方ないさ。だが、私も命は惜しくてね…また、君と一緒に過ごしたいのだが…」
「…僕はかまいませんが」
「おいおい!ちょっと、待てよ!こんなヒョロイやつに仕事を横取りされてたまっかよ!そんなことが知られちゃ傭兵なんてやってけねぇじゃねぇかよ!」
「そうですね…。マイルさんには申し訳ないですが、俺たちは傭兵です。舐められたら終わりの仕事をしているんですよ」
「テメー!俺と勝負しやがれっ!」
護衛の一人がそんなことを言いはじめた。
「…いいですね。対人戦闘の練習になるかもしれません…ジン。彼と戦ってみますか?」
「えっ!?いいのっ!やったー!へへっ!やるやるっ!」
「て、テメー…ガキに俺の相手させるっつーのかよ!舐めんのも大概にしろよっ!」
「だ、大丈夫かい?その子に任せてしまっても」
「…大丈夫ですよ。彼一人ならいい戦いになるのではないですか?」
「ふ、ふふ、ふざけんなっ!」
彼は剣を抜き、大きく振りかぶった。
「死んでも知らねぇからなっ!」
キンッ!
「おー!強いじゃん!」
ジンはすぐに剣を抜き彼に対抗していた。
「な、何っ!?」
「んー、でも姉ちゃんの方が何倍も強いなぁ…」
今でもジンはエルナと模擬戦をしている。
エルナが手加減をしていたとしても、
全く太刀打ち出来ていないようだが…
「ふ、ふざけん…なよっ!」
「よい…っしょー!」
何度か剣をぶつけ合っていたが、
ジンが下から上に剣を振り切ると、
彼の剣は飛ばされてしまった。
「な、何で…」
「よし!俺の勝ちだなっ!」
「う、嘘です…相棒が…こ、子供なんかに負けるなんて…」
「…3点ね。アンタね…少し遊んでたでしょ?アンタが全力を出して、すぐに終わらせたとしても時間の無駄なのに…時間をかけ過ぎよ?」
「げっ!バレた!」
「当たり前でしょ?こんな雑魚の相手に何、手間取ってるのよ…傭兵と戦えると思って、様子を見たんでしょうけど…全力を出しながらでも様子を見ることは出来たでしょ?」
「…ごめんなさい」
エルナとジンのやり取りを見て、
護衛たちは驚きが隠せないようだ。
「…ジンくん…かな?彼も相当、強いんだね」
「…エルナに鍛えてもらっていますからね」
「それじゃあ…彼女も…」
「…ええ、強いですよ」
「そうなんだね…」
僕とマイルさんの話を聞いて、
護衛達は何も言わなくなった。