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コンコンコン
扉を叩く音が聞こえた。
「すまぬな…もう休むところであったか?」
扉の外には王様が立っていた。
「…いえ、大丈夫ですよ」
「そうか…。いや、なに、客人が来ることも少なくてな…少し話に付き合ってはくれぬか?」
「…かまいませんよ」
「すまぬな。では、場所を変えよう」
僕は王様について歩き、
客室へと案内された。
「ここなら誰も来ぬだろう…側近らがいると貴殿も思うようには話せぬだろうからな…酒は飲まれるか?」
「…いただきます」
「うむ」
王様は酒とグラスを二つもって、
テーブルへ置くとソファに腰掛けた。
「貴殿も座ってくれ…」
そう言って、グラスに酒を注いでくれる。
「…失礼します」
「そういう堅苦しいのはよい。余はありのままの貴殿の話が聞きたいのだ…正直に話してくれ…今、この国のことをどう思う?」
「…そうですね」
「…聞いておるのは余だけぞ?率直な意見が聞きたいのだ。話してはくれぬか?」
「…では…正直に申しますと、僕には国のことなど興味はありません。王国がどうなろうが、帝国がどうなろうが関係ないと考えています」
「ふむ…」
「…ただそこで生きていく為に考えるだけです」
「国など…いらぬと申すか…」
「…そこまでは言いませんが…国があることで争いは続きますよね?もう争いを辞めることが出来ないほどには…人が死んでいますよね?」
「そう…であるな」
「…現実を見て、この王都は規律が保たれているのかもしれませんが…他の街ではどうですか?王国と謳っていながらも、領主による独立国家のようなものではありませんか…それで国と…果たして呼べるのでしょうか?」
「…そうなのかも知らぬ。だからこそだ!我が娘に現状を見てもらい…変えてゆこうとしておるのだ!」
「…それで変わるのですか?統治できていないのであれば、それはもう別の国ではありませんか?」
「その通り…だな。だがな、帝国のスパイによってだな…」
「…それで領主達が好き勝手にしていると仰るのですか?それでしたら、そこはもう帝国と呼んでも差し支えないのではありませんか?」
「ふむ…」
「…個人的な意見で申し訳ありませんが…僕は王国も帝国も好きではありません。互いが互いに殺し合うことしか、考えていないとしか思えませんからね」
「っ!そんなことはないっ!」
「…そうでしょうか?」
「そうだ!それについては…王国は民の平和の為にある。余はそのために考え、行動しておるつもりだ。それを脅かそうとしておる帝国に抵抗しているだけに過ぎない」
「…そう…言うことにしておきましょう」
「それとも何か?貴殿はそうではないと言える証拠でも知っておるのか?」
「…貴方は何も知らないのですね」
「何っ!?」
「…いえ、でしたら僕から言えることは何もありません」
「貴殿は…何の話をしておるのだ?」
「…遠い昔の話ですよ」
僕がそう言うと、
王様は険しい顔で聞いている。
「…何でもありませんよ。気にされないでください」
「気にするな…と、言われてもな…この国で起こっておることであるのなら、話してはくれぬだろうか?」
「…いえ、もう終わった話ですので」
「…そう…であるか」
「…貴方は貴方が思う、良い国作りを目指したらいいのではないですか?その結果、人が救われるのなら何も言うことはないと思いますよ」
「…そう…であるな。余は何を迷っておったのだろうか?」
「…今の現状に驚かれてしまっていたのではないですか?貴方が描いていた理想の国とは違っていましたからね」
「そうだな。思うように…行かないことに…不安を抱いておったのかも知らぬな…」
王様はそう言って、
グラスに入った酒をグイッと飲んだ。
「それ!貴殿も飲まれよ!」
「…いただきます」
僕もグラスを手に持ち、酒を飲む。
「…何故だろうな?貴殿は不思議な雰囲気を持っておるな…。貴殿がここに残らぬことが、惜しいと思ってしまったではないか…」
「…貴方からすると暴論を言う、嫌味なやつではありませんか?」
「いや…そうではあるまい。貴殿がこの国を見てきた限り…そう思うことしか出来なかったのであろう?…そういう者を減らすことが余の目指す国である」
「…そうですか」
王様は笑いながら、そう話した。