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「…エルナ。あれから…どれほどの時が経ちましたか?」
僕を支えてくれているエルナに声をかけた。
「…5分も経ってないわよ」
「…そうですか」
「大丈夫かっ!?サラ様!すぐに治療を!」
「はいっ!」
サラ王女は何か言葉を呟くと、
ヒールと言葉を発した。
身体があたたかい光に包まれる。
「…ありがとうございます」
「お身体は大丈夫ですか?」
「…はい。もう大丈夫ですよ…」
僕の背中の傷はもう塞がっていた。
「兄ちゃんっ!本当にごめん!」
王城に戻るとジンは泣きそうになりながら、
謝り続けている。
「…ジン。僕は大丈夫ですよ…これも一つの経験です。戦っている時に…ほんの一瞬でも、隙を見せてしまうと…命を失う可能性があるということを…学びましたね?」
「う、うん」
「…戦場の後をちゃんと見ましたか?」
「…見たよ。魔物の死骸と…人の…」
「…あそこに転がっているのが僕たちだった可能性もあるんですよ?」
「そ、そう…なんだよな…」
「…今回は生きていられましたが…いつああなるのかはわかりませんからね?それを忘れないようにしてください」
「…わかったよ」
ジンは瞳に涙を溜めながら、
決意に満ちた目をしている。
これもまた…一つ成長ですかね?
「ジンは大丈夫だったのですか?」
「サラ!うん!俺は大丈夫だったぜ!…兄ちゃんに怪我させちゃったけど…兄ちゃんを治療してくれて、ありがとうなっ!」
「ううん!…ジンに何かあったらって思ったら…すごく怖かったです…」
「…へへっ!兄ちゃんと姉ちゃんがいたからな!俺はかすり傷程度ですんだぜ!」
「それはアンタが自慢気に話すことじゃないと思うんだけど?」
「そ、そうだよな!ご、ごめんなさい…」
「わかってる?アンタのせいで彼が大怪我を負ったのよ?それをちゃんと理解してるのかしら?」
「…エルナ。ジンはもう反省しましたから…これ以上、言うことはありませんよ」
「でもね…」
「…それを負い目に感じて、トラウマになられても困りますからね」
「…はぁ、そうね。でも、貴方を怪我させたことを許せないわ」
「ね、姉ちゃん…ごめんなさい…」
「だから、今後はしっかりと気をつけなさい?いいわね?」
「う、うん!わかった!」
「…これでいいでしょ?」
「…エルナ。ありがとうございます」
僕はエルナに感謝を伝えた。
「サラ様」
「バルバロ!」
「王様がお呼びです。君たちも一緒にいいかな?」
「…わかりました」
僕たちはバルバロの後を歩いた。
「終わったか…」
「はっ!報告いたします。死者26名、重傷者、軽傷者ともに多数おりますが、治療を行えば前線に復帰することは可能でございます。また、帝国の死者は9名、以上でございます」
「そうか…報告ご苦労…」
「はっ!」
バルバロが報告を終えると、
王様が話しかけてきた。
「貴殿らのおかげで我が騎士達は救われたと話を聞いておる。魔物の大半は貴殿らが倒してくれたそうだな?」
「…そうかもしれませんね」
「本当に感謝する」
王様は軽く頭を下げた。
「…お引き受けした以上…仕事はこなしますよ」
「そうか…貴殿らがよければなのだが…我が騎士に迎え入れたいと考えておる。貴殿らはどう思う?」
「…ありがたい申し出ですが、お断りします。僕は王国の人間になるつもりはありません」
「き、貴様っ!まだそんなことを言うかっ!」
「…ですが…エルナとジンは…どうされますか?」
「私は貴方のそばにいるわ」
「…そうですか」
「俺は…」
ジンは迷いながら話し続ける。
「俺は…兄ちゃんと姉ちゃんのそばにいてもいいのかな?俺がいたらさ…迷惑…かけちゃうよな」
「アンタね…最初から迷惑かけてたでしょ?それを今更…何を言っているのかしら?」
「…そ、そうだよな」
「…ジン。僕はジンの気持ちを聞いているのですよ?僕はジンが…自分で人生を選ぶまでは…メルナン爺さんに頼まれていますからね。ここで王国の騎士になることも選択肢の一つだとは思います。ジンは…どう思いますか?」
「俺…まだ兄ちゃんと姉ちゃんのそばにいたい…でも、いいのかな?」
「…そばにいたいのなら…いれば良いのですよ」
「…ありがとう、兄ちゃん…」
「…そう言うことですので、申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
僕は王様を見て、断りを告げた。
「そうか…だが、貴殿らであれば…王国はいつでも騎士として迎え入れよう」
「…ありがとうございます」
「では、礼として余が与えられるものであれば用意するが…何が欲しい?」
「…そうですね。それでしたら、食糧を分けていただけますか?」
「食糧だと?」
「…はい。明日には旅に出ますので」
「まだここでゆっくりしてもかまわぬのだぞ?」
「…いえ、ありがたいお言葉ですが」
「そうか…わかった。明日には食糧を用意させることにしておく」
「…ありがとうございます」
王様との謁見はこうして終わった。
「明日には行ってしまうんだね…」
バルバロが話しかけてきた。
「…そうですね。ここに長居する必要はありませんからね」
「まぁ、君の言う通りか…だが、今回の事といい、護衛のことについても感謝するよ。本当にありがとう。君たちのおかげで、どれだけの犠牲者が減らせただろうか…」
「…それでも、犠牲者は出ています」
「そう…だな。だが、それでも…やはり君たちのおかげだよ、ありがとう」
「…いえ…かまいませんよ」
「王様が言うように…仲間になれたら嬉しかったんだけどね」
「…申し訳ありません」
「いや、君には君の考えがあるんだろう。私こそ要らぬことを言ってしまったね」
バルバロは申し訳なさそうにしている。
「今日はゆっくりと休んでくれ。君たちにはちゃんと部屋を用意してあるからね」
「…ありがとうございます」
では、失礼するよとバルバロは、
立ち去っていった。
使用人の方に部屋まで案内してもらった。
ジンは疲れていたのだろう…
部屋に入るなり、すぐに眠ってしまった。
「こんな豪華な部屋で過ごす日がくるなんてね…思いもしなかったわ」
「…そうですね」
「そろそろ不便なんじゃないかしら?」
「…何がですか?」
「言わなくてもわかってるでしょうに…私がもう考えているわよ?」
「…そうですか」
「聞かないのかしら?」
「…聞きませんよ」
「…そう。それでかまわないのかしら?」
「…それが僕ですからね」
「…私はそうは思わないけれど?」
「…僕がそう思っているんですよ」
「…そう。なら、言わないでおくわ…」
「…そうしてください」
エルナは私も寝るわねと言って、
ベッドに横になった。
僕はそれから窓から見える夜空を見ていた。