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魔物達は王都へと攻めてきており、
数は500を超えているようだ。
「こ、この数はっ!?」
「わ、我々で対処しきれるだろうか…」
「…無駄口を叩く暇はありませんよ?」
「か、彼の言う通りだっ!陣形を整えよっ!リリアラは魔法部隊を頼むっ!」
「わかりました!」
バルバロが的確に指示を飛ばす。
「…王国の魔法部隊は数が少ない…どれだけ被害を抑えられるだろうか…」
「…魔物使いが多く集まっていますね」
「…そうだな。だが、帝国の騎士もいるようだ…数は…15人ほどか…率いているのはガアランだな…」
「…知っている方ですか?」
「ああ、よくやり合っているが…お互いにまだ死なずにすんでいるようだ」
「…そうですか」
「バルバロ!魔法部隊の準備は出来ました!」
「わかった!詠唱をはじめてくれっ!皆の者!仲間の魔法に巻き込まれるなよ!数は圧倒的に帝国が多いっ!だが、我々の力を見せつけよっ!」
「おぉぉぉぉおおお!」
「行くぞぉぉぉぉおおおおお!」
バルバロの掛け声で騎士達は突撃をはじめた。
「…では、僕たちも行きましょうか」
「…優先事項は何かしら?」
「…そうですね。僕たちの生存ですかね…」
「わかったわ」
「…ジンは自分が生き残ることだけを考えてください」
「わ、わかった!」
「…では、行きます」
僕たちも魔物の群れの中へと走った。
「風よ…」
風で魔物を切り裂きながら、前へと進む。
切り裂かれた魔物をエルナとジンが、
殺していく。
二人が取りこぼした魔物は殴り潰した。
「…まずは、一人」
目の前に現れた、魔物使いの頭を潰した。
「な、何だっ!?アイツらはっ!」
三人で前へと進んでくる僕たちを見て、
帝国の騎士達は驚きを隠せないようだ。
「…ジンは魔物に集中してください」
「お、おう!」
帝国の騎士を意識していたので注意した。
「アンタね…集中できてないわよ?」
「姉ちゃん!ご、ごめん!集中するっ!」
後ろから襲われそうになったジンを、
エルナは助けていた。
ジンはエルナの補助を受けながら、
何とか魔物の中で戦うことが出来ているようだ。
「ファイヤーボール!」
王国の魔法部隊が魔法で魔物を殲滅していくが、
なかなか数が減らない。
流石に数が多すぎたか…
僕はそう思いながらも魔法と拳で、
魔物を殺し続ける。
徐々に徐々にジンの傷が増えてきた。
「一旦、下がるわよ?」
「…わかりました」
「ほら!ジンっ!一旦、下がる!」
「わかった!」
エルナの指示でジンは少しつづ後退する。
二人が離れたので、
僕は魔法を気にせずに使うことができる。
風で切り裂き、吹き飛ばし、叩き潰す。
どんどん魔物の数も減り、
魔物使いの数も減ってきた。
後は帝国の騎士を何とかしないといけないな…
「ジンくんっ!そっちは大丈夫かい?」
「バルバロさん!大丈夫っす!」
バルバロがジンに声をかけた。
その瞬間、ジンは魔物から意識が外れた。
危ないっ!
僕は風を使い、魔物とジンの間に飛んだ。
「っ!」
「に、兄ちゃんっ!!」
「っ!何すんのよっ!」
僕は背中を切り裂かれた。
魔物の命はエルナが刈り取った。
「大丈夫なのっ!?」
「に、兄ちゃんっ!!」
「…大丈夫です!まだ魔物はいますよ!」
「っ!」
僕の声でエルナもジンも周りに意識を戻した。
大丈夫…大丈夫だ。
僕は死なない…死ねない。
この心臓が止まるまでは、
この心臓が潰されるまでは…
僕は死なないんだ…
背中から血を流しながら、
魔法と拳で魔物を迎え撃つ。
「怪我をした者は下がれっ!サラ様が治療してくださるっ!君もだ!下がるんだ!」
バルバロが僕に声をかけたが、
僕は何も答えなかった。
「っく!そのままでは死ぬぞっ!」
怪我をした騎士達は戦いながらも後退している。
また、治療された騎士が前線に戻る。
だが、騎士が優先だ。
「兄ちゃんっ!下がって!」
「貴方ねっ!下がりなさいよ!」
エルナとジンも同じことを言っているが…
僕は魔法を使ってさらに前に進む。
次々に魔物を殺しながら、
帝国の騎士の前へと走り進めた。
「…お前…本当に人間か?」
「…さぁ?どうでしょうね?」
ガアランと呼ばれていた騎士が話しかけてきた。
「…このっ!悪魔めっ!」
ガアランが剣で斬りつけてきた。
どうやら血を流しすぎて、
身体が上手く動かないようだ。
避けきれずに左腕で受け止めて、腹を殴る。
力もそこまで入っていない。
「っぐはっ!」
だが、それでも彼の意識を飛ばすことはできた。
くの字に倒れ込んだ彼を、
風を使い、吹き飛ばす。
「ガアラン様がやられたぞっ!」
「く、くそっ!引くぞっ!撤退だっ!」
帝国の騎士達はガアランを抱えて、
撤退していった。
周りを見渡すと、魔物の死骸。
王国の騎士、帝国の騎士の死体が、
転がっているのが見えた。
戦いは終わった。
「に、兄ちゃんっ!!ご、ごめん!俺のせいでっ!」
ジンが泣きながら駆け寄ってきた。
フラフラしながらも僕は答える。
「…大丈夫ですよ。僕は死にませんから…」
「…だとしても、無理しすぎよ?」
エルナは少し怒っているような、
悲しんでいるような表情で話している。
「…申し訳ありません」
「今は…ゆっくり休みなさい」
「…はい。エルナ…ありがとう」
僕はそのまま意識を無くし、
エルナに身体を委ねた。