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「すごいな…」
街が踊るかのようなパレードが行われている。
人混みをかき分けて進み、
邪魔にならなそうな場所へと移動した。
まるで蛇のようだ。
そう思いながら酒場へと入った。
ガチャッ
「今日はしまいだ…」
「そうでしたか…」
「ん?何だ、余所もんか…だったら一杯、奢ってやるよ」
「…いいのですか?」
「かぁー!そこはありがとうって貰っときゃいいんだよ!」
「ありがとうございます」
マスターは一杯の酒を注いで渡してくれた。
「外はすげぇーだろ?」
「そうですね…何か祭りでもあるのですか?」
「はっ!クソみてぇな祭りだよ。この街は狂ってんのさ…蛇神なんていいやがって…」
「蛇神…ですか?」
「あぁ、そうさ!蛇神ったって、ただの魔物だろうがよ…それに生贄を渡して暮らしてんだよ…なっ?狂ってるだろ?」
僕は何も言えない。
「あぁ、そりゃそうだな!そんな街に暮らしてる人間に…狂ってますね!なんて言えねぇよな?いいんだよ…別に…俺ぁ、狂ってると思ってるね…前から言ってたんだよ…狂ってる、おかしいってな」
「そう…なんですね」
「そしたらよ!今度の生贄は俺の娘だってよっ!街のやつら、みんなして俺の娘を連れ去って行きやがった…クソがっ!」
マスターは悲しそうな顔で、
カウンターを強く叩いた。
「俺ぁ、間違ってるか?街の娘を魔物に食わせて生きていくっておかしくないか?ただ…それを言いたかっただけなのに…どうしてっ!」
ドンッ…ドンッ…
カウンターを叩く音が静かに響く。
「あぁ、ワリィな…兄ちゃんには関係ねぇ話だからな…よくこんな辺鄙な街に来ようと思ったな?何か用事でもあったのか?」
「いえ…そういう訳では」
「そうか…だったら俺の娘が食われるところでも見てってくれよ?な?」
僕は何も言えない。
「ははっ!冗談だっての!…冗談…だっての…」
「お代は…」
「あ?んなもんいらねぇよ!店じまいだってさっき言っただろうが!それよりもっと呑めよ!俺の酒に付き合いやがれっ!」
それからマスターは街のおかしさ、
娘への愛情がこもった話を続けていた。
「蛇神様がきたぞぉー!」
街の外から大きな声が聞こえてきた。
外に出ると先程までの人混みはなく、
広場に一人の女性が磔にされていた。
「マリィィィイイイイ!」
隣でマスターが大きく叫んだ。
「お父さん…」
「マリっ!俺が…お父さんがすぐに助けてやるからなっ!」
「お父さんっ!ダメっ!逃げてっ!」
白い蛇の魔物はニョロリ、ニョロリと、
磔にされた女性へと向かっていく。
「クソッ!マリに近づくなっ!」
パリンッ
マスターは酒瓶を魔物へとぶつけた。
「お父さんっ!」
魔物は女性からマスターへと、
向きを変え、近づいてくる。
徐々に、徐々にスピードを上げながら。
「クソッ!クソッ!クソォォォォ!」
パリンッ パリンッ パリンッ
白い蛇の魔物がマスターに飛びかかった。
僕は右手を振りかぶり、魔物を殴る。
血が飛び散った。
右手は蛇の胴体を貫通し、
マスターに噛み付くことが出来なかったようだ。
「あ、あ、兄ちゃん…」
マスターは恐怖で腰を抜かしている。
「マスター…後は、僕にお任せください」
左手で魔物を握り締め、
右手を魔物の身体から抜ききると、
地面に叩きつけ、右手で殴る。
何度も何度も何度も何度も…
僕の身体に巻きつこうとしたり、
毒液を飛ばしてきたりと、
無駄な抵抗を続けていたが、
頭を殴り潰すと、
痙攣した後にピタリと動かなくなった。
「あ、兄ちゃん…」
「マスター…美味しいお酒でした」
魔物の血と毒液に塗れた状態だったが、
お礼を伝えた。
ゴンッ
僕の頭に石が投げつけられた。
「へ、蛇神様を殺しやがってっ!」
「蛇神様の祟りに遭うぞっ!」
街の人達が次々に僕へと石を投げつける。
魔物を掴み、引きづりながらも街を出る。
街人の罵詈雑言と石の嵐の中、
一人だけ…僕への感謝の言葉が聞こえた。
「兄ちゃんっ!ありがとうっ!!」