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兄ちゃんと姉ちゃんが馬車を降りてから、
俺たちは馬車を走らせ続けた。
「ジンくんは…彼らが心配では…いや、これを私が聞くのは間違っているな…」
「何で?心配なんてしないっすよ?」
「それは…何故かな?」
「だって、兄ちゃんと姉ちゃんだもん!魔物なんかに負けないっすよ!」
バルバロさんは心配そうな顔をしてるけど、
俺は全然、心配なんかしていない。
というか、俺の方が不安なんだけどっ!
俺…兄ちゃんと姉ちゃんいなくて…
大丈夫なのかな…?
「っく!魔物が来たぞっ!」
リリアラさんはホニャララと、
不思議な言葉を呟いている。
おー!きっとこれが詠唱ってやつだね!
うん…やっぱり、
俺に魔法は無理なのかな?
そんなこと考えてる場合じゃねぇやっ!
俺は自分の顔をパシンッと叩いた。
「よっしゃっ!行くぜっ!」
バルバロさんに続いて、
俺も魔物へと向かっていく。
初めて魔物と戦った時は、
怖くて、怖くて仕方なかった。
姉ちゃんに何度、怒られたか…
でも、兄ちゃんが優しく大丈夫って、
言ってくれるだけで俺は大丈夫な気がした。
それで本当に今は大丈夫なんだもんな…
やっぱり、兄ちゃんはすげぇやっ!
そんな兄ちゃんにお願いされたんだ!
俺だってやれるってとこを見せなきゃなっ!
「ジンくん!…やはり、強いね」
「へへっ!でも、バルバロさんの方が、まだまだ強いっすけどね!」
「それがわかるだけ…君はすごいよ」
バルバロさんと魔物を倒しながらも、
俺たちは馬車を守る。
サラはきっと、戦うすべを持っていないんだ。
だから、バルバロさんとリリアラさんが、
サラを守ってるんだな…
「ファイヤーボール!」
やっぱり、魔法ってすげぇっ!
魔物がボーボー燃えていく。
その時、嫌な感じがした。
何故かはわからない…
でも、嫌な感じのした方を見ると、
俺たちの死角から、
馬車を狙っている魔物に気付いた。
やばいやばいやばいっ!
サラが狙われてるっ!
「っ!?ジンくん!?」
突然、俺が後ろに走ったことに、
バルバロさんは驚いた声を上げた。
だが、それでもサラを守る為に、
俺の身体は動き続けた。
「へ?きゃぁぁああ!」
サラが魔物に気付いて叫び声を上げた。
間に合え!間に合えっ!
俺は魔物とサラの間に飛びかかった。
背中に痛みが走る。
「じ、ジンっ!?」
「っつ!このやろっ!いってぇなっ!」
背中にジンジンと痛みを感じるけど、
間に合ったっ!!
俺はそれが嬉しかった!
サラを狙った魔物を倒したら、
バルバロさんとリリアラさんは、
もう全ての魔物を倒していたみたいだ。
「ジン!大丈夫ですかっ!?」
「っつ!…へへっ!サラこそ怪我してない?」
「わ、私は…大丈夫ですが…ジンは背中に…」
「そっか!なら、よかった…っててて」
「ジン…」
突然、サラがホニャララと呟いた。
「ヒール」
サラがそう言った途端に、
俺の背中はあたたかく包まれて、
気付けば痛みも無くなっていた。
「あれ?もう痛くない?」
「もう…大丈夫ですか…?」
「おう!もう大丈夫!え?何で!?」
「ふふっ、私が魔法を使ったんですよ」
「えっ!?サラも魔法使えるのっ!?」
「はい。でも、ジンだけに教えてあげたのですから…内緒ですよ?」
「わかった!俺、秘密は守るから!てか、怪我治してくれて、ありがとうなっ!」
「いえ、ふふっ」
サラは笑顔で俺の怪我を治してくれた!
てか、サラも魔法使えるなんて、すげぇ!
でも、秘密だかんな!内緒ぉ〜…内緒ぉ〜
「…そんなに眉間にシワを寄せて…どうされたんです?」
「え?いや、サラがすげぇって思ったんだけどさ!秘密にしなきゃって考えてたら…」
「それで、顰めっ面をされていたのですね。てっきり、まだ、お怪我が治られていないかと…心配しましたよ」
「あー!ごめんごめん!怪我は大丈夫!めっちゃ元気になったぜっ!てか、俺が怪我したって知ったら…姉ちゃんにまた怒られちゃう…だから、怪我したことは内緒なっ!」
「はい!2人だけの秘密…ですね!」
「おう!」
サラと話していたら、
バルバロさんとリリアラさんが走ってきた。
「大丈夫でしょうかっ!?」
二人とも、すごい顔してるなぁ〜
「私は大丈夫です。ジンが身を挺して助けてくださいましたので…」
「ジンくん。本当にありがとう…突然、後ろに走って行くから驚いたが…まさか、魔物が襲っていたとは…君が気付いていなければ…今ごろ…」
多分だけど…兄ちゃんが教えてくれた、
気配ってやつなんだと思う。
俺はそれを感じることが出来たのが、
すごく嬉しかった!
「大丈夫っすよ!俺だって護衛なんすからね!ちゃんと守らなきゃっ!」
「そう…だな。君には驚かされてばかりだな…」
「へへっ!兄ちゃんと姉ちゃんに色々、教えてもらってっからな!」
「ジンくん。本当にありがとうね」
「そんないいっすよ!それより…兄ちゃんたち…早く帰ってこねぇかなぁ〜」
俺がそう呟くと、
バルバロさんは悔しそうな顔をしていた。