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「…バルバロ。魔物が来ます」
「っ!」
僕がバルバロに声をかけると、
バルバロは驚いたようだったが、
すぐに戦闘体制に入った。
「リリアラ!」
「わかっています!」
「…三人も頼めるかな?」
「もちろんだぜっ!」
ジンは元気よく返事を返した。
「魔物はどこから攻めてくる?」
「…前に10…後ろに10…左右から20…合わせて40程ですね」
「数が多いな…これでは…」
「…バルバロにはこのまま馬車を任せられますか?」
「…何か策があるのかい?」
「…簡単な話ですよ。バルバロとリリアラ、ジンには前をお願いします。…左右と後ろの魔物はこのまま馬車を走らせ続けて合流させましょう」
「…それでは追いつかれるのでは?」
「合流した30程なら私と彼がいれば十分よ」
「っな!それは危険すぎるっ!」
「…僕たちは死にませんよ」
「だ、だが…」
「ついでに魔物使いもいるなら殺そうかしら?また狙われるのも面倒だものね…」
「…先ほどの魔物と今回の魔物で使役している魔物を使い果たしたのではないですかね?まぁ、違ったとしても…見つけてしまえばいいだけの話ですが…」
僕とエルナの話を聞いてバルバロは悩んでいる。
「…そこを抜ければ街に着くのではありませんか?」
僕は遠くに見える街を見ながらそう言った。
「…だがっ!やはり、君たちを危険に晒す訳にはっ!」
「…優先順位を考えてください。バルバロ…貴方が一番に守らなければいけないのはサラさんですよね?…仮に、僕たちが死んだとしてもサラさんを守れるのならいいのではないですか?」
「…っく!」
「…でしたら、もし万が一のことがありましたら…ジンの事を頼めますか?」
「…わかった。任せてくれ」
「…お願いします」
僕はジンに話しかける。
「…ジン。ジンはバルバロ達と一緒に前の魔物をお願いします」
「おう!わかったぜ!…あれ?でも、兄ちゃんと姉ちゃんは?」
「私たちは後ろからくる魔物を殺してくるから…アンタは前の魔物を殺すのよ?」
「そっか!じゃあ、俺はバルバロさん達と一緒に戦えばいいんだな!」
「…お願いできますね?」
「おう!わかったぜ!」
「…では、バルバロ。お願いします」
「…っ!わかった!」
僕とエルナは馬車から降りた。
馬車は止まる事なく走り続ける。
「…では、行きましょうか」
「ふふふ。楽しみね…」
目の前にウジャウジャと魔物が溢れている。
「…あそこにいますね」
「んー?あー、ホントね…どっちにするのかしら?」
「…エルナには彼を任せます。僕が行くまで…殺さないでくださいね」
「…仕方ないわね…でも、楽しませてもらうわよ?」
「…ほどほどにしてくださいね?…僕が行った時に死んでいては困りますから…」
「それなら、早く来てね?待てないかもしれないわ…」
エルナはそう言って、走り去った。
「…それは…困りますね」
僕は呟いた後に、
魔物が溢れている中へと突っ込んだ。
前も後ろも横も…
魔物、魔物、魔物
殴り殺しながら、前に進む。
流石にこれだけの数がいたら、
攻撃を避け続けることも難しい…
大きな狼のような魔物に、
左腕を食いちぎられた。
血が飛び散る。
だが、僕はそれを気にせずに殴り殺す。
「風よ…」
風で切り裂き、吹き飛ばし、叩き潰す。
食いちぎられた左腕が徐々に生えてきた。
僕は腕が無くなろうが、足が無くなろうが…
内臓が無くなろうが死なない。
そう、死ねないのだ。
きっと、心臓を潰されなければ…
僕は死なない。
返り血なのか…
それとも、僕の血なのかわからないが、
全身真っ赤に染まりながらも、
魔物を殲滅した。
「クスクス…」
「いでぇ!いでぇぇよぉ!」
足を切り落とされて、泣き叫んでいる男がいた。
「…間に合いましたね」
「…あら?素敵ね」
血に染まった僕を見て、
エルナはそう言った。
「…冗談はやめてください」
「…本気よ?」
僕はため息を吐いた。
「…話せますか?」
「く、クソがっ!テメーらに話すことなんかねぇよっ!」
「…そうですか」
僕は…彼の右腕を…
「ぐぁぁぁああああああ!」
「…どうでしょうか?まだ話すことは出来ますよね?」
「い、いでぇ…く、クソっ!いでぇんだよ!」
「…お聞きします。貴方は帝国の人間ですね?」
「っ!…ち、違うっ!」
「…そうですか。それだけ聞ければ…もう用はありません」
「違うっ!お、俺はっ!帝国のに」
エルナが首を切り落とした。
「もう用済みなのよね?」
「…はい。彼は帝国の人間でした」
「まぁ、そうでしょうね」
「…そうですね」
僕は彼の首を持って、
エルナと一緒に馬車を追いかけた。