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「す、すげぇ…魔法だっ!」
「彼女は魔法使いだ!巻き込まれないように気をつけてくれっ!」
「わ、わかりましたっ!」
「ふーん。魔法使いねぇ…」
エルナは小さな声で呟いた。
「…申し訳ありません。これほどの数の魔物に襲われているということは…魔物使いがいるかもしれませんね…」
「それは私も考えていた…だが、魔物の数が多すぎてな…」
「…そうですね。まずは魔物を殲滅しましょうか。風よ…」
僕がそう呟くと、
風で魔物が切り裂かれていく。
「ま、魔法使いかっ!?」
護衛の彼は驚いた声を出した。
「…早く魔物を殲滅しましょう」
「…そ、そうだな」
それから、時間もかからずに魔物を殲滅した。
「た、助かった…ありがとう」
「大丈夫すよ!無事でよかったっす!」
ジンは彼らが助かったことが嬉しいのだろう。
晴れやかな笑顔で答えている。
「姉ちゃん!姉ちゃん!こんだけ魔物がいたらさ!俺も剥ぎ取り、上手くなるよなっ!?」
「それはどうかしらね?」
「えー!そこは上手くなるって言ってくれよなぁ!」
「はいはい。なるわよ。だから、口じゃなくて、手を動かしましょうね」
「わかった!」
エルナとジンは彼らを放置して、
剥ぎ取りをはじめようとしている。
「…え、えっと」
「…あぁ、申し訳ありません。彼は剥ぎ取りが苦手なものでして…上手に剥ぎ取れるように練習がしたかったのですよ」
「そ、そうか…」
彼は困った表情をしている。
「…君の名前を聞いてもいいかな?私の名前はバルバロだ。彼女の名前はリリアラ」
「リリアラです」
剣を使う彼の名が、バルバロ。
魔法を使っていた彼女の名が、リリアラ。
「…名乗るほどの者ではありません」
「…名前は…言えないか。君は…魔法を使っていたね?…何処かの国にでも仕えていたのかな?」
「…いえ」
「…名乗れない上に…国に仕えていた訳でもない…と」
「…そうですね」
バルバロは僕を疑うような表情をしている。
「…僕は襲ってきた方々とは無関係ですよ」
「…本当かな?本当だとして、どうしてそれを信じられると言うんだい?」
「…仰る通りですね」
「バルバロ?」
「っ!出てきては行けませんっ!」
馬車の中なら少女が出てきた。
「魔物は倒すことが出来たのですか?」
「はい…彼らの力を借りましたが…」
少女は僕を見た後、
剥ぎ取りを頑張っているジンと、
ジンを見てため息を吐いているエルナを見た。
「彼らが助けてくださったのですね。でしたら、お礼を言わなければなりませんね」
「ですが…」
「助けてくださったお礼を言うのは間違っているのかしら?」
「…いえ、仰る通りですね」
「そうですよね。助けてくださり、ありがとうございました」
少女はスカートの裾を摘み、
上品にお辞儀をしてくれた。
だが、それを聞いたのは僕だけだ。
「…彼が助けようとしなければ…僕は何もしませんでした。お礼を伝えるなら、彼にお伝え下さい」
「あら?そうでしたか!でしたら…」
少女はそう言うとジンに近づいた。
「あの…」
「あー!今、集中してるから声かけないでっ!」
「えっ!?」
「また失敗したわね…」
「あーっ!もうっ!だから、今は声かけないでって言ったじゃんっ!」
「ご、ごめんなさい!」
「俺!今!集中してる!」
「わ、わかりましたわ…」
少女を気にもせずに、剥ぎ取りを続けている。
「君っ!ちょっと、失礼じゃないかっ!?」
「バルバロ!」
「はっ!」
「もう少し待ちましょう」
「…わかりました」
少女はジンが頑張っている姿を、
じーっと見つめていた。