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パチッパチパチッ…パチッ
焚き火の音が夜の闇に響き渡る。
僕は草に座り、ただじっと火を見つめていた。
後ろから足音が聞こえてきた。
パキッ
木の枝を踏んだ音だろう。
「ちょっと、ごめんよ!オイラも一緒に休ませてもらえねぇかな?」
爽やかな笑顔でそう声をかけてきた。
「かまいませんよ」
「兄ちゃん!ありがとな!ふぃー…夜になると魔物も見えやしねぇからな…それに山賊にでも襲われたら溜まったもんじゃねぇ!助かったよ!」
「いえ…」
「兄ちゃんは1人で旅をしてるのかい?」
「そうですね」
「へぇ〜、珍しいね!…見たところ行商でも無さそうだし…本当にただの旅人かい?」
「そう…なると思いますが?」
「そうかい!オイラは行商をやっててよ!山賊に襲われねぇかヒヤヒヤしながら生きてるってもんだ!」
「山賊は…数で襲ってきますからね」
「そうだろ?本当はよぉ〜…一緒に行く予定だった奴がいるんだけどよ…これなくなっちまってさ…困ってたとこだったんだよ!」
「そうですか」
「兄ちゃん…見たところ、あんまり荷物が無さそうじゃねぇか?それで大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。まだ生きていますから」
「何だい!まるで死んでもいいみたいに話すじゃねぇか!」
「そうですかね?」
「そうだろ!」
ブツブツと言いながら彼はカップに、
飲み物を入れて渡してくれた。
「焚き火に入れてくれたお礼だよ!一杯やろうぜ」
どうやらお酒のようだ。
「ありがとうございます。いただきます」
一緒にお酒を飲みながら、
焚き火をじっと見つめていた。
「兄ちゃんはどこに向かってるんだい?」
「さぁ?どこに向かってるのでしょうか?」
「はぁ?何言ってんだよ?旅をしている以上、目的があんのが普通だろ?」
「でしたら、僕は普通ではないのかもしれませんね」
「兄ちゃん、あんた大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。風の吹くままに…行き先を決めていますので」
「…そ、そうかい」
また静かな時間が過ぎてゆく。
カタカタカタカタ
彼の足がカタカタと揺れている。
「どうかされましたか?」
「…あ?あぁ…何でもないよ」
「そうですか」
だが、彼の足はずっと貧乏ゆすりが止まらない。
「何を焦っているのですか?」
「…はぁ?何を言ってんだよっ!オイラは別に焦ったりなんかしてねぇよ!」
「そうですか…。てっきり、毒の効きを待っているのではないかと思っていたのですが…」
「なっ!?」
「先程のお酒に毒を入れていましたよね」
「き、気付いてたのかっ!」
彼は懐からナイフを取り出した。
「ちっ!親方に怒られちまうな…」
「最近はこういう襲い方もあるのですね」
「だが、酒を飲んだところは見たぞ!もうすぐで毒が身体を回り出す。そしたらおしめぇだ」
「僕には効きませんよ」
「はぁ?」
「僕に毒は効きません」
「な、なんだと!んな訳ねぇだろ!」
「効かないんですよ。生まれつきね…」
「ちっ!なら直接、殺すだけだ!」
彼はナイフで襲ってきた。
「風よ…」
「魔法使いかっ!?」
風が僕を守ってくれる。
「山賊は殺されるのでおすすめしませんよ」
僕はそう教えてあげながら、
右手を大きく振りかぶり、顔面を殴り潰した。
焚き火のように真っ赤に染まった右手を、
僕はただ静かに眺めていた。