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「あ〜…この素材はなぁ〜…」
買い取り屋に素材を見てもらっているのだが…
「…何か問題でもありますか?」
素材に問題はない。
傷も付けずに、剥ぎ取っているのだ。
何が問題なのだろうか?
「いや〜…ほら、ここ見てよ?傷付いてますよね?」
先程、渡した時には無かった傷だ。
「…傷に…見えなくもないですね」
「そうでしょ?だから、このぐらいの金額になっちゃいますかねぇ〜」
買い取り屋が提示した金額は、
相場の半額以下だった。
「…その金額でしたら、結構です」
「ちょっ!お客さん!…こんな素材じゃどこも買い取ってくれませんよ?うちがどれだけ譲歩してこの金額を提示してると思ってるんですか?」
「…そうですか。ありがとうございます。…ですが、結構です。返していただけますか?」
「いやいや!そういうわけにはいきませんよ!…こっちだってね!こんな素材を見てやったんだ!この金額で買い取らせてもらいますよ!」
この店主は何を言っているんだろう…
「…ジン。さっそく悪いお手本がいましたよ?」
「えっ?そうなの?」
「…はい。この店主の方は、僕たちなら安くで素材を買い叩けると考えているんですよ」
「…で、でも…傷はついてるし…」
「…これはですね」
僕はそう言ってから、店主の胸ぐらを掴んだ。
「っ!な、なにすんだ!」
「…エルナ」
「…はいはい」
エルナは店主がいるカウンターを乗り越え、
カウンターの下から綺麗な素材を取り出した。
「えっ!?」
「…ジン。エルナが持っているのが、僕たちが持ち込んだ素材です。素材の確認をしながら、傷の付いている素材とすり替えたんですよ」
「…ぜ、全然、気づかなかった…」
「い、言いがかりだっ!」
店主はギャーギャーと喚いている。
「…うるさいですね…少し黙りましょうか?」
僕が少しだけ睨みをきかせると、
店主は静かになった。
「…ジン。こうやって素材を持ち込んだら終わりではありませんよ?素材ごとの相場を知らなければ、半額以下…いや、ほぼ価値のないような金額で買い叩かれてしまいますからね?」
「う、うん。わかったよ」
「それで?アンタ…わかってるわよね?私たちから買い叩こうとするなんて…ねぇ、街の外に連れて行って殺しましょうか?」
「…エルナ。殺してしまうほどではないでしょう。…相場の金額で買い取っていただけるなら…ですが」
「わかった!ちゃんとした金額で買い取る!だ、だから、い、命だけはっ!」
「相場の金額?それじゃ足りないわ…迷惑かけられたんだもの…わかるわよね?アンタの命の金額を上乗せしなさい?それなら許してあげてもいいかしら?」
「わ、わかったっ!だ、だから、命だけは…」
「…でしたら、交渉成立ですね」
僕たちは店主から相場よりも高い金額で、
素材を買い取ってもらった。
「…な、なぁ…本当にいいのかな?」
「何が言いたいの?」
「だ、だってさ…確かに俺らを騙してたのは許せないけどよ…それでも相場よりも高い金額で買い取っちゃったらさ…生活とかできんのかな?」
「…ジンは優しいですね。大丈夫ですよ。彼らはそれを見越した上で吹っかけてきているんです。ですから、彼としては買い叩くことが出来たら儲け物で、仮に買い叩くことができなくても少し損をする程度で買い取っているんですよ」
「えっ!?そ、そうなのか?だってさ!い、命の金額をとか言ってたじゃんか!?」
「そんなのただの脅し文句でしょ?本気にしたの?アンタって本当に子供ね」
「で、でも…」
「私が簡単に人を殺すから、本気にした?」
「………」
ジンは何も答えない。
「…はぁ…アンタね…黙ってたら思ってましたって言ってる様なものよ?」
「い、いや…」
「遅いわ…。はぁ…そんなんじゃ簡単に人に騙されるわよ?まぁ、アンタが騙されようが…私には関係ないけれど…」
エルナはため息を吐きながらも、
あたふたとしているジンを見ている。
「ねぇ?本当に大丈夫なのかしら?」
「…何がですか?」
「何がって…この子よ」
「…大丈夫だと思いますよ」
「何を根拠に…言ってるのかしら…?」
「…根拠は…特にはありませんね」
僕がそう言うと、
エルナはまた、ため息を吐いた。