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「アンタって本当にバカなのね。人は人を簡単に殺しにくるのよ?魔物だけじゃないの?わかってるのかしら?」
エルナはジンに冷たく言い放った。
「わ、わかっては…いるんだけどさ…」
僕たちの周りには盗賊の死体が転がっている。
「わかってないわ。さっき、命乞いされて躊躇したわよね?彼が助けてくれなかったら、アンタが殺されていたのよ?アンタの判断が間違ったせいで私と彼に手間をとらせるの。もしかしたら、殺される可能性だってないわけじゃないの。それをちゃんと理解してるのかしら?それとも言われなきゃ、わからないほどバカなのかしら?」
「…………」
ジンは何も言い返せない。
「…ジン。人を手にかけることは躊躇しても仕方のないことだと思います。誰だって理由も無しに殺すことはないでしょうから…」
「う、うん…」
「…ですが、エルナの言うことも理解できますね?」
「うん…」
「…ジンにとって、僕やエルナがどのような存在なのかはわかりませんので…例えとして出させてもらいますが、メルナン爺さんが殺されそうになっていたら助けたいとは思いませんか?」
「それは絶対に助けたいっ!」
「…そうですか。助ける為には、メルナン爺さんを殺そうとしてる人を殺すしかなかったとしたら?…ジンはどうしますか?」
「…本当に殺すことでしか…解決できないのかな?」
「…どうですかね?これは例えの話ですので…」
「その時になったらわかるんじゃないかしら?でも、その時は考えてる間に…殺されてるでしょうけどね」
「そ、そう…だよね」
ジンはそれでも考えているようだ。
「街に居れば考える必要もないわよ?街には衛兵もいるでしょうから…私たちと旅を続けるから…考えなくてもいいことを考えなきゃいけないんじゃないかしら?」
「俺…俺ってさ…兄ちゃんと姉ちゃんの…そばにいちゃダメなのかな?」
「かまいませんよ。メルナン爺さんに頼まれましたので…ジンが自分で人生を決めるまでは…面倒を見るつもりで考えていますよ」
「ほ、本当に…いいの?」
「はい…」
「あ、ありがとう、兄ちゃん!」
「はぁ…貴方がそう言うなら…仕方ないわね…」
エルナもため息を吐きながらも、
面倒を見てくれるつもりなのだろう。
「…それでは…街を目指しましょうか…」
僕たちはまた歩き始めた。
ジンは歩き始めると少しづつだが、
元気になってきたようだ。
「なぁ、兄ちゃん!兄ちゃんってさ!なんであんなに強いの?なんか傭兵とかやってたのか?」
「…いえ、特には何もしていませんが…」
「でもさ!魔法を使えるじゃん!!俺さ!魔法見るのも初めてだったからさ!ビックリしたんだぜ!」
「…そうですか」
「もう一度さ!魔法見してくれよ!俺も魔法使えるようになれないかな?」
「やっぱり、アンタはバカなのね…そんな簡単に魔法を使えるようになれるなら、誰だって魔法を使ってるはずでしょ?でも、魔法を使っている人を見たことがないってことはどう言うことかしら?考えたらわかることでしょ?」
「そ、そうだけどさ…」
「…そうですね。魔法を使えるようになる為には、魔導書を理解しなくてはいけないですね。後は…精霊と仲良く出来るかどうか次第ですかね?」
「えっ!?精霊ってホントにいるのかっ!?」
「…存在しますよ」
「マジでっ!?俺さ!精霊見てみたい!!」
ジンは嬉しそうに見たいと、
何度も言っている。
すぐそこにいるのにな…
「…ジンにはわからないのかも知れませんね」
「え〜っ!何でだよ!?」
「…すぐそこに風の精霊がいますよ?」
「えっ!?どこどこっ!?」
やはり、ジンには見えていない様だ。
「…ジンには見えていないんですね」
「見える人間なんてそうそういないわよ?貴方が特殊なだけだと思うのだけど?」
「…そうなんですか?」
「…そうね。私にも見えないもの」
精霊はエルナも見えていない様だ。
すぐそこにいるのだが…
風の精霊は僕を慰めるように、
頬を撫でてくれた。
ありがとう…
僕は心の中で感謝の言葉を伝えた。
風の精霊は微笑んでくれた。
僕の言葉が伝わったのかも知れない。