23
あれから僕たちは三人で旅をしている。
「俺も木の棒から卒業したんだなぁ〜」
「…ジン。それは相手だけでなく自分の命を奪う物でもある。使う時にはそれを心掛けてくださいね?」
「う、うん。わかったよ」
ジンは緊張した面持ちで剣を握りしめた。
「今日からは剣を使って鍛えてあげるわ。軽い傷ならつくと思うけど…心しなさい」
「わ、わかった!」
ジンはエルナから鍛えられて、
多少は魔物とも戦えるようになってきた。
「うりゃあぁぁぁぁぁぁああああ!」
ザクッ!ブシュッ!
「はぁぁぁあああ!」
魔物を斬り殺すことができた。
「アンタって私の話聞いてる?」
ジンを背後から襲おうとした魔物を、
斬りながらエルナはそう尋ねた。
「うわぁ!…ご、ごめんなさい」
「…はぁ…まぁ、いいわ」
エルナに言われて、
僕は魔物とは戦っていない。
ジンを鍛える為にも、
僕は戦うなと言われてしまった。
パチッパチパチッ…パチッ
焚き火をしながら野宿をしている。
「なぁ、兄ちゃんはさぁ〜…どこに向かってるの?」
「…さぁ…目的地はありませんね」
「じゃあさ、テキトーに歩いてるってこと?」
「…まぁ、そうなるかもしれません」
「ふーん。じゃあ、俺と姉ちゃんが居なくなったら大変だな!」
「…何故ですか?」
「え?だって、俺と姉ちゃんがいないと魔物に襲われちゃうじゃん!」
「…そうですね」
ジンはそう言って笑っている。
「アンタはバカだと思っていたけど、本当にバカだったのね…彼が戦うとアンタを鍛えられないから戦わないでもらってるのよ?」
「えっ!?そ、そうなのっ!?」
「…はぁ…彼は剣を使わないから、私が教えてあげてるだけ…明日、模擬戦でもしてみたら?」
「やりたいっ!なっ?いいだろ?兄ちゃんっ!」
「…僕としても強くはなれませんよ?」
「そうかしら?何かのヒントにはなると思うけど?」
「…そう…ですかね?」
「私はそう思うかしら?」
「…そうですか」
「なっ!いいだろっ!?やろうぜっ!」
「…でしたら、明日野宿する前に…少しだけ時間を取りましょうか」
「やったっ!」
「…ジン。もうそろそろ休む時間ですよ?」
「あっ!そ、そうか!わかった!おやすみ!」
「…おやすみなさい」
ジンは草の上に寝転がって眠りはじめた。
「ねぇ、いつまで面倒見るのかしら?」
「…さぁ、いつまででしょうか」
「全く…あの爺さんのせいね」
「…そうですね」
そうエルナと話したけれど、
僕たちの中に嫌悪の感情は見えなかった。
「よしっ!兄ちゃんっ!そろそろいいだろっ!」
次の日、また三人で歩き続け、
そろそろ日が落ちてくるころだ。
「…そうですね」
「やったっ!いっつも姉ちゃんにボッコボコにやられてっからなっ!兄ちゃんの方が絶対優しく教えてくれると思ってたんだよ!」
「…そう…ですかね?」
「そうだって!じゃあ、やろうぜっ!」
「…わかりました」
ジンは剣を抜き、走り近づいてくる。
近づくなり、大きく縦に剣を振ったので、
横へと移動しながら、膝裏を軽く蹴った。
ジンは気付かない内に、
自分が座っていることに驚いていた。
ゴロゴロと転がって距離をとる。
「な、ななな、何だよ!今のっ!?」
「…何でしょうかね?」
「く、くそっ!うぉぉおおおお!」
また同じように近づいてきた。
学習はしているようで、
今度は縦でなく、横に薙ぎ払うように、
剣を振ったので、僕は後ろへと回り込み、
同じように膝裏を軽く蹴った。
ジンはまたゴロゴロと転がり、距離をとる。
「な、何が起こってんだ?」
「…もう…終わりにしましょうか」
「いや!まだだ!ぜってぇ!おかしい!」
今度はジリジリと近づいてきた。
僕が急に近づき、腕と肩を掴んで倒した。
気がつくと空を見上げている状況に、
理解が追いついていないようだ。
僕はジンを見下ろしながら、
もう終わりですよと声をかけた。
パチッパチパチッ…パチッ
「兄ちゃんってめっちゃ強いのなっ!俺さ!手も足も出なかったっ!すげぇ!ほんとにすげぇ!」
ジンは嬉しそうに話している。
「それはそうでしょ?私でも敵わないような人だもの」
「姉ちゃんでもそうなのかっ!す、すげぇ!」
何だか居心地が悪い。
「…もうその話は辞めませんか?」
「やめないって!こんな強いなんて!若い頃の爺ちゃんよりも強いかもしれねぇぜっ!」
ジンはそう言った後に、
お爺さんのことを思い出したのか、
少し寂しそうな表情をした。
「お、俺も…いつか爺ちゃんみたいに…強くなれっかな?」
「…なれるのではないですか?」
「アンタには無理ね」
僕とエルナは正反対の答えを言った。
「ど、どっちだよっ!?」
「…努力次第…ですかね?」
「可能性が下がったっ!」
「アンタが血を吐くような経験を幾度と繰り返してなれる強さがあるのよ?今の私達に守られている状況でなれる訳ないじゃない」
「そ、そう…だよな」
ジンはションボリとしている。
「で、でもよ!い、いつか!俺は絶対になるから!絶対になるからっ!おやすみっ!」
ジンはそう言って眠りについた。
「貴方が本当に模擬戦をしてあげるとは思わなかったわ」
「…エルナが言ったんですよね?」
「そうね。でも、私の意見を聞いてくれて…嬉しかったわ」
「…そうですか」
パチッパチパチッ…パチッ
焚き火の音が夜空へと響いていた。