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「おはよう」

「…おはようございます。もう起きても大丈夫ですか?まだ安静にしていた方がよろしいと思いますが…」

「なに、まだまだ若いもんには負けんわい!…心配かけたのぉ」

「いえ…」


ジンは泣き疲れて寝てしまった。

瞼を赤く腫らしながらも、

スヤスヤと寝息を立てている。


「ジンにも…心配をかけてしまったのぉ…。お主には感謝するぞ…本当にありがとう」

「いえ…彼にお願いされましたので…」

「それでもじゃ…救ってくれたのはお主じゃからのぉ…ワシはのぉ…人の瞳を見れば大体どのような人生を歩んできたのかわかるんじゃ…」

「…そうですか」

「…苦労してきたんじゃのぉ」


僕は何も答えない。


「…お主は…幾度となく…死ぬような…いや、何も言うまい。本当に感謝しておる」

「…気にされないでください」

「薬は高かったじゃろう?そこまでのお金はないのじゃが…」

「いえ、いりませんよ」

「じゃが…」

「…大丈夫です。気にされないでください」

「そうか…すまんのぉ」


お爺さんは少しだけ悩んだ表情をした後に、

僕にお願いがあると言った。


「お主には…申し訳ないのじゃが…ジンのことを頼むことは出来ないかのぉ?」

「…何故でしょうか?」

「…ワシは魔物と戦う傭兵をしておった。数多くの魔物と戦う毎日を過ごしておったのじゃよ。ある日、ワシがついたときにはもう魔物に滅ぼされてしまった村があったんじゃが…そこに生き残りの赤子がおってな…それがジン…この子じゃ…。ワシが育てようと決めたんじゃがな…どうやらワシはもう長くないようじゃ…」

「…どうして…わかるのですか?」

「ふふふ、それは自分の身体じゃからな…わかるんじゃよ。ふふ、違うな…今までは魔物の毒や呪いに蝕まれる身体で…隠し隠し生きておったが…お主の薬でそれも無くなった。だからじゃろうか?もうワシの身体に活力が残っておらんことに気付けた…のかのぉ…」

「…そう…なんですね」

「じゃが、晴れ渡るような清々しい気持ちじゃ…こんな気持ちはいつぶりじゃろうか?…もう忘れてしまっておった…若かりし日のあの頃以来かもしれんのぉ」


お爺さんは笑顔で話を続ける。


「ワシはいつ死んでもおかしくはない…ワシの人生はいつ終わってもよい…じゃが…ジンのことだけが…気掛かりなんじゃよ」

「…そうですか」

「…どこか…お主が信頼できる者に任せるでもよい…それまででいいんじゃ…ジンのことを頼むことは出来ないじゃろうか?」

「…彼は納得しないのではありませんか?」

「そこはワシがなんとかする!…なんとかしてみせる…じゃから…どうか…頼む…」

「…僕は目的地もなく旅をしています。魔物に襲われる生活が当たり前です。仮に死んでしまう可能性もありますが…それでもよろしいのですか?」

「大丈夫じゃ!…お主ならきっとジンを無惨に殺させることはないじゃろう…」

「…僕では守ることが出来ない可能性もあります。魔物の数次第では彼自身で身を守って貰わなければなりません。今の彼では無理です」

「なら、ワシが死ぬまでの間は…ここで鍛えてはもらえぬだろうか?」

「…どうして僕なのですか?」

「…お主は…目的がないのじゃろう?なら、ワシの代わりに…ジンを育ててはくれまいか?」

「…僕は」

「…わかっておる。何も言わずとも良い…じゃから、お主が信頼できる者に任せても良い…ジンが一人で生きていくと決めたのなら、それでも良い…じゃから、それまでの間で良いのじゃ…どうか…どうか頼めんだろうか?」


お爺さんは僕の目を真剣に見つめながら、

必死に頼むと伝えている。


「…わかりました」


僕はただ、一言だけそう返した。


「…エルナ。お願いがあります」

「貴方がお願いするなんて珍しいわね…何かしら?」

「あの少年を…ジンを鍛えてはもらえませんか?」

「…わかったわ」


エルナは何も聞かず、

わかったと言ってくれた。


「えっ!?マジで教えてくれんのっ!?」

「彼のお願いだから、仕方なしに教えるのよ?上達しないようだったらわかってるわね?」

「お、おうっ!あんがとな!兄ちゃんっ!」


それからエルナはジンを鍛えてくれた。


「ほほほ…ボロボロじゃなぁ〜」

「う、うっせぇよ!今に見てろよっ!昔の爺ちゃんよりも強くなってみせっからよ!」

「このお爺さんがどれほど強かったのかなんて知らないけれど、それは無理ね」

「ほほほ、嬢ちゃんは手厳しいのぉ」

「く、くそっ!」


ジンは何度も立ち上がり、

木の棒を握りしめエルナへと向かう。


「…本当にありがとう」

「僕は何もしていませんよ。お礼なら彼女にお伝えください」

「…お主は可愛げがないのぉ」

「…そうかもしれません」

「じゃが、それがお主なのじゃな」


お爺さんはニコニコと笑いながら頷いている。


「ほら!お主も食べんかっ!」

「…空腹でない時に食事はとりませんので」

「何を言っておるっ!せっかくの食事じゃ!皆で食べるものじゃろうが!」

「なぁ、姉ちゃん。兄ちゃんが怒られてるぜ」

「…そうね。でも、お爺さん?彼の好きなようにさせてもらいたいのだけど?」

「嬢ちゃんも嬢ちゃんじゃ!本当に大切なら、もっと向き合うべきじゃないのかのぉ!」

「…ぽっと出のジジイに言われたくないんだけど?」

「なんじゃとっ!?」

「わかりました…食べますので…」

「ふん!わかればよい!」

「…本当にいいの?」

「…大丈夫ですよ。ありがとうございます」

「そう…」


あれから僕たちは、

メルナン爺さんの家で過ごしている。

だが、少しづつ少しづつ、

メルナン爺さんの寝てる時間が多くなった。


そしてその日が訪れたのは急な出来事だった。


「じ、爺ちゃんっ!」

「…ジンか」

「爺ちゃんっ!起きてよっ!爺ちゃんっ!」

「…ワシは…もう」

「なぁ!兄ちゃんっ!あの薬でまた治るよな!?そうだよな!?」

「…飲ませましたが…もう」

「そ、そんなっ!う、嘘だっ!そんなの信じねぇ!爺ちゃんっ!」

「ジン…ワシは十分生きた。もう…寿命なんじゃよ…わかって…おくれ」

「爺ちゃんっ!」


ジンは涙を流しながら、

何度も何度もメルナン爺さんを呼んでいる。


「ジン…よく聞くんだよ…」

「っ!」

「…これからは兄ちゃんと…一緒に過ごすんだ…ワシが…ジンのことを…ゴホッゴホッ!…お、お願い…して…あるからのぉ」

「う、うん。わかったからさ。わかったからさ」

「ジンは…ワシの…ゴホッ!…だ、大事な…大事な孫じゃ…自分の人生を…好きなように…生きるんじゃぞ?」

「うん…うん…」

「嬢ちゃん…?」

「何かしら?」

「…あやつから…ゴホッゴホッ!…目を離すでないぞ?」

「離すつもりはないわ」

「そうか…ゴホッ!…そうで…あったか…。なら何も…言うことはあるまい…。ジンを…ゴホッゴホッ!…鍛えてくれて…ありがとう」

「彼に頼まれたからしただけよ」

「それでも…ありがとう」


エルナは何も言わなかった。


「…そこに…おるんじゃろ?」

「…はい」

「…本当に…感謝…ゴホッゴホッ!…感謝しておる…ジンのこと…頼むぞ?」

「…わかりました」

「お主はワシの…大切な…息子サンじゃ…ワシの我儘を…ゴホッゴホッ!…き、聞いては…くれぬ…かのぉ?」

「…何でしょうか?」

「ど、どうか…死なないでおくれ…お主も…嬢ちゃんも…ジンも…ど、どうか」


僕は何も答えなかった。


「あ、当たり前だろっ!俺も兄ちゃんも姉ちゃんも!絶対死んだりなんかしねぇよっ!」

「そうか…そうか…皆…ワシの大切な…か、かぞく」


それきりメルナン爺さんは、

何も言わなくなった。


「うわぁぁぁぁぁあああああん!じ、爺ちゃん!爺ちゃんっ!」


ジンはそれからずっと、

泣き続けていた

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