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ガイルの馬車は走っていった。


僕は何も考えずにただ街を歩く。


「おいっ!そこの姉ちゃん!剣持ってんじゃねぇか!?」

「…は?」


少年がエルナに話しかけてきた。


「なぁ!俺を強くしてくれよっ!姉ちゃんは強いんだろっ?」

「…そうね。時間を無駄にしたくないと言ったらわかるかしら?」

「そこを何とかっ!頼むっ!頼むよっ!」


少年は何度も何度も頭を下げている。


「…はぁ、私の話は聞こえないのかしら?」

「すまんのぉ…ジンが迷惑をかけてしまって…」

「げっ!爺ちゃんっ!!」

「こらっ!ジンっ!人様に迷惑をかけてはいかんと言っておるじゃろっ!謝らんかっ!」

「だ、だってよっ!この姉ちゃん教えてくれねぇんだぜっ!?」

「当たり前じゃっ!それまでに築いてきた知識や経験を人様から簡単に貰おうなどと考えるでないっ!」


お爺さんは少年の頭を小突いた。


「お主らは旅人かね?見たところ傭兵ではなさそうじゃが…」

「…そうですね」

「そうかそうか…旅をするだけでも大変じゃろうに…ジンが迷惑をかけてしまったな…」

「本当にそうね」

「…エルナ」

「何よ?本当のことを言っただけよ?」

「…はぁ…こちらこそ申し訳ありません」

「いやいや、迷惑をかけたのはこちらじゃからな。言われても仕方なんだ」

「…ありがとうございます」


お爺さんはニコニコと笑いながら、

僕と会話をしている。


「ジン!帰るぞっ!」

「ちぇっ!わかったよ…また今度会った時には教えてくれよなっ!」

「ジンっ!」

「うわぁっ!あ、あっぶね!逃げろぉー!」

「…全く。それじゃあ、ワシらはこれで失礼するな」


お爺さんとジンと呼ばれた少年は、

一緒に立ち去って行った。


「面倒な子供もいたもんね」

「…エルナも大概ですよ?」

「どういう意味かしら?」

「…何でもありませんよ」

「…そう」


それから、僕は宿をとり、

身体を休めることにした。


ドンドンドンッ!


真夜中に宿屋のドアを叩く音がする。

一階の方から女将が迷惑そうな声で、

ドアを開けたようだ。


「何だい?」

「こ、こここ、ここにさ!二人組の旅人が泊まったんじゃないかなっ!爺ちゃんがさ!爺ちゃんがっ!」

「何だい…ジンかい…メルナン爺さんがどうしたんだい?」

「爺ちゃんが倒れたんだよっ!お、俺!俺さ!薬買う金…持ってなくて…誰でもいいっ!爺ちゃんを助けてくれよっ!」

「メルナン爺さんが倒れたのかいっ!?…でもねぇ…うちも薬は…」

「行商のおっちゃんに聞いたんだよっ!二人組の旅人ならもしかしたら持ってるかも知らないってさ!行商のおっちゃんの薬じゃ治らないみたいで…だからさ!泊まってないかなっ!?」

「…それは僕のことですか?」

「に、兄ちゃんっ!!」


一階に降りると涙を瞳いっぱいに、

溜めながらも必死な顔の少年がいた。


「た、頼むよっ!爺ちゃんを助けてよっ!」

「…どこでしょうか?」

「こ、こっちだよっ!」

「アンタっ!メルナン爺さんを頼んだよっ!」


後ろから女将の声が聞こえたが、

僕は振り返らずに少年の後を追った。


「…ゴホッゴホッ!…ゴホッ!」


お爺さんは苦しそうに咳き込んでいた。


「…いつからこうなりましたか?」

「…よ、夜中に急に酷くなって…兄ちゃんは薬持ってんだろ?な、治せるよな?」

「…どうでしょうか?…わかりませんが」


僕は小瓶に入った赤い液体を、

お爺さんに飲ませた。


青褪めた表情をしていたお爺さんの顔色が、

少しづつ良くなってきた。


「す、すげぇ…」

「…効いたようですね」

「兄ちゃん!すげぇんだな!そんな薬初めて見たぜっ!」

「…そうでしょうね」

「え?」

「いえ…何でもありません」


お爺さんはまだ少しだけ苦しそうだが、

目を覚ました。


「…っ!…お、お主は…」

「体調はどうですか?」

「…少し…良くなったかのぉ」

「それならよかったです」

「爺ちゃん!爺ちゃんっ!」

「おー、ジンよ…爺ちゃんはそんな簡単には死なんさ…だから、泣くでない…」

「だってさ…だってっ!」


それから少年は心が落ち着くまで、

泣き続けた。

それを宥めているお爺さんを、

僕はただ静かに眺めていた。

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