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ザーザーと雨が降っている。


俺は舌打ちをしながらも、

馬車を持ち上げようと必死になっていた。


雨は人だけでなく、馬の体温も奪う。

近くに大きな木があって助かった。

そこなら、まだそこまで雨にも当たらないので、

馬達はそこで休ませている。


コートに付いているフードを被り、

ぬかるみにはまってしまった馬車を、

動かそうとしているところだ。


「…チッ」


今日、何度目の舌打ちだろうか…


どんなに力を込めても、

足が滑ってしまい動きそうもない。

やはり…一人では難しいか…


そう思っていると、俺と同じように、

コートに付いているフードを被った人が、

二人歩いている姿を見かけた。


手伝ってはもらえないだろうか?

俺はそう思い、声をかけた。


「すまないっ!馬車がぬかるみにはまってしまってな!手伝ってはくれないか?」

「…かまいませんよ」


一人がそう言ってくれた。

ありがたい…俺はそう思った。


「では、一緒にお願いできるか?」

「…いえ、少し離れていただけますか?」

「は?」


何故、離れなきゃいけないのだろうか?

その時に盗賊なのか?と一瞬だけ焦った。


「…一人で大丈夫ですので」


そう言った彼は20代半ばぐらいの、

真っ白いような…銀髪の男性だった。


「…風よ」


彼がそう言うと、強い大きな風が吹き、

馬車がガタガタと持ち上がった。


「…これで大丈夫ではないでしょうか?」

「あ、ああ…」


馬車を見るとぬかるみから抜け出せていて、

もう動かせそうな状態だった。


「す、すまない…助かった」

「いえ…かまいませんよ」


俺は盗賊ではと疑ってしまったことを、

申し訳なく思いながらも、

疑うことは悪いことじゃないと、

自分自身を肯定した。


「アンタらは…歩いて行くのか?」

「…そうですね」

「もしよかったら俺の馬車に乗らないか?もう少し行ったら小屋があるから、雨が上がるまでそこで休めるんだが…」

「…よろしいのですか?」

「ああ、もちろんだ。助けてもらったお礼もしたいしな」

「…ありがとうございます」


俺は二人を乗せ、小屋へと急ぐ。


馬車に乗る時にもう一人を見たら女性だった。

黒い髪の可憐な女性だ。

彼と同じぐらい…いや、少し歳下だろうか?

彼女は腰に剣を差しているから、

魔物と戦うことは出来るのだろう。


「ここだ。先に中へ入っててくれ」

「…お手伝いいたしますが?」

「いいのか?」

「…はい」

「なら、すまない。馬をあそこで休ませてくれないか?」

「…わかりました」


俺は馬車の荷物が大丈夫かを確認し、

貴重品を手荷物の中へと入れた。


彼は馬達を連れて行ってくれた。

俺の馬は人に対して警戒心が強い…

だと言うのにおとなしく従っている。

こんなにも心を許していることに驚いた。


悪いことをしていることはわかっているが、

彼らが本当に盗賊ではないとは言い切れない以上、

俺は馬で確かめさせてもらったのだ。


だが、馬は穏やかに彼について行った。

彼が馬達を優しく撫でる姿に…

また、申し訳なく思ってしまった。


「…こちらでよろしいですか?」

「あ、ああ、助かった。中へ入ろう…」

「…そうですね」


彼女は先に中へ入っていて、

小屋の中を見渡していた。


「ふーん。こんなところに小屋があるなんてねぇ」

「ここは知ってるやつしか使わない小屋だからな…仲間内だけで使ってるんだよ」

「…そうなんですね。僕たちを連れて来てもよかったのですか?」

「助けてくれたお礼がしたいって言っただろ?これもその内の一つさ」

「…そうですか」


コートを脱いでから、暖炉に火を灯す。


「歩いて移動するのは大変だろ?雨にも濡れたんじゃないか?」

「…そうですね。ですが、もう慣れてますので」

「私は嫌よ…濡れるのなんて最悪だもの」


彼らは全く正反対のことを言っている…

それでよく一緒に行動が出来るもんだ。


「そ、そうか…濡れるのが嫌なら馬車を使ったらどうだ?嬢ちゃんがどれだけ強いのかは知らないが…戦えるんだろ?」

「そうね」

「だったら、護衛でもしながら行動することも出来るだろう?…それに見たところ…行商をやっているようでも無さそうだしな…傭兵か?」

「いえ…ただの旅人ですよ」

「旅人…か…。だったら、俺が言うようにした方がいいんじゃないか?兄ちゃんは魔法使いなんだろ?馬車を持ち上げるほどの魔法なんて初めて見たぞ…」

「…そうですか」


彼は静かにそう答えた。


「…いや、二人がそうしない理由があるなら別に俺は何も聞かないがな…」

「私は彼について行ってるだけだもの。そんな面倒なことはしないわ」

「そ、そうなのか?」


彼女はただ、彼について行ってる?


「じゃあ、兄ちゃんはどこに向かってるんだ?」

「…目的地はありません。ただ…風の吹くままに…旅をしているだけですよ」

「そ、そうか…」


変わっている人だ。

この世界では魔物に襲われないように、

必死に生きなければ簡単に死んでしまう。

魔物だけじゃない。

悪い人間もいて、人から物や命を奪う者もいる。


それなのに、目的地もなく旅をしている?


俺は彼らと関わってしまっても、

よかったのだろうか?


「と、とりあえず、食事にでもするか?ほら、こっちに来いよ…身体が冷えたらいけない」

「…ありがとうございます」

「あー、あったかいわね…」


だが、温まる二人を見て…

俺の考えすぎかもしれないと思った。

明らかに俺よりも歳下の二人が…

目的地もなく旅をしている。


訳ありなことは想像できる。

ただ、今は何も考えずにいようと思った。


「ほら、ちょっとしたもんしかないけどな…酒も飲むか?」

「…ありがとうございます」

「私はお酒はいらないわ…気分悪くなるもの」

「そうか。じゃあ、兄ちゃんだけだな…よし!じゃあ、食べようか」

「…いただきます」


三人で軽い食事をとる。

俺と兄ちゃんだけ酒を飲んだ。


外はまだ土砂降りの雨の音が聞こえていた。

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