18
僕たちの前に一人の男性が現れた。
「お、お頭っ!」
「おー、タグぅ〜…やっぱり生きてんじゃねぇかよぉ〜」
「ど、どうしてお頭が…こ、ここに…?」
「俺ぇあよぉ〜…騙すやつが許せねぇんだよぉ〜…裏切ったタグを許すこたぁできねぇんだよなぁ〜」
ニタニタと笑いながらもお頭はそう言った。
「あんたがよぉ〜…騙すように言ったそうじゃあねぇかよぉ〜?ん〜?おかげで大切な仲間が一人死んじまったじゃねぇかよぉ〜…どう責任とってくれんだぁ〜?」
「こ、この人は関係ねぇだろっ!」
「関係あんだよっ!アイツが俺を騙す訳がねぇんだっ!それなのに…それなのに…あぁ、可哀想に…泣きながら死んでいったぜぇ〜…アンタのせいでなっ!」
「…そうですか」
「いち、に、さん、しぃ〜…うん。そうだなぁ〜…女は生かすとするかぁ〜。オメーらっ!女は殺すなよっ!」
「は、はいっ!」
周りに隠れている男性たちが、
声を合わせて返事をした。
「く、クソっ!兄ちゃんたちは逃げろっ!どうか…クミンだけは頼む…」
「どうして頼まれないといけないのかしら?」
「な、何だって!?お頭には敵わなぇ!俺が命をかけて兄ちゃんたちを逃すから逃げろよっ!」
「…そう言ってるけど?」
「ゴチャゴチャとうるせぇんだよ!俺ぇあよ…何でアイツが騙すようなことをしたのか…それが知りてぇんだよ!…アンタなんだろ?騙すように言いやがったやつはよ?」
エルナとお頭が僕に話しかけた。
「…そうですね」
「何でそんなことをよぉ〜…言ったんだよぉ〜?ん?おかげで大切な仲間を殺すことになっちまったじゃねぇかよぉ〜…テメーのせいでなっ!」
「…宝石が返ってきましたよね?それでよろしかったのではないですか?」
「それは俺ぇあのもんだ!…裏切ったタグを殺して連れ帰るのが重要だろうがよ〜…」
「…そうでしたか」
「まぁ、いい…俺ぇあを騙したアンタとタグを殺して…アンタらの女をもらうことにするからよぉ」
「…一つ言っておきますが…彼女は僕の女ではありませんので」
「私は彼の女よ」
沈黙。
「…違いますが?」
「違くないわ。私は貴方に全てを捧げているもの」
「うるせぇぞっ!痴話喧嘩なんかしてんじゃねぇっ!反吐が出るわっ!オメーら!殺せっ!」
「クソっ!兄ちゃん!逃げろっ!」
タグは剣を抜き男性たちに向かって、
戦いに向かった。
その横を走り抜けて、
一人、また一人と殴り殺す。
「っ!なっ!?」
タグは驚いて止まってしまった。
「戦わないのなら退いてくれるかしら?」
エルナはタグにそう言うと、
剣を抜き、男性たちを切り裂いていく。
四肢を切り落とし、
苦しそうにしている姿を見て、
クスクス笑いながらも切り殺していく。
いったい何人殺したのだろうか…
気付けば、お頭一人しか残っていなかった。
「て、テメーら…よくも…よくもっ!仲間をっ!」
「…貴方にとって仲間すらものでしかないのではありませんか?」
「な、何だとっ!」
エルナがお頭の左足を切り飛ばした。
「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」
「…クスクス」
お頭はその場に転がりながら、
無くなった足を抑えている。
「別に…貴方がどのように生きようが…僕には関係ないのですが…」
もう痛みで僕の話を聞くことも、
出来ていないようだが…
「…殺すつもりなら、殺されても仕方ありませんよね?」
そう言って、顔を殴り潰した。
返り血を浴びた僕とエルナを見て、
タグとクミンは怖がっているようだ。
「…もう日が昇ります…そこまで行けば街に着くのではないですか?」
「…あ、ああ」
「…僕と一緒にいる必要はありません。行かれたらどうですか?」
「あ、兄ちゃんは…いや…何でもない…」
そう言って、クミンと荷物を纏めはじめた。
クミンは震えているのか、
なかなか荷物を纏められていないようだ。
エルナは何も言わない。
「あ、兄ちゃん…あ、あのよ…その…」
「…何でしょうか?」
「…兄ちゃんが…何考えてんのかなんて…俺には…わ、わからねぇけどよ…で、てもよ!…た、助けてくれたこと…感謝してんだ…ありがとな」
僕は何も答えない。
「っ!…本当にありがとな…じゃあ…」
そう言って二人は歩き去って行った。
二人が居なくなった空間は、
とても静かに感じた。