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「おいっ!タグ!お前逃げられるとでも思ってんのかよ!?あ!?」
目の前に今にも殺しにきそうな男性が、
タグに声をかけた。
男性の仲間だろうか?
すでに周りは囲まれている。
「うげっ!…もう来たのかよ…」
「当たり前だろうがっ!ウチから宝石を盗んどいてよくそんなことが言えるな?あ!?」
「…あれは元々、俺の物だったんだ!返してもらっただけだろ!?」
「テメーが仲間になるって言った時にお頭に献上したもんだろうがよっ!そんなら、もうテメーのもんじゃねぇだろっ!?」
「俺はもう辞めたんだ!だから、返してもらったっていいだろうがっ!」
「テメーの都合で考えんじゃねぇぞ!お頭に献上した時点でテメーのもんに戻るわけねぇだろうが!おめーら!タグをぶっ潰せ!」
「おう!」
取り囲んでいた男性達も手に剣や斧などを持ち、
襲いかかってきた。
キンッ!キンッ!
金属と金属がぶつかる音が響く。
「っく!…って!何で俺だけなんだよ!ちくしょうっ!」
僕とエルナを素通りして、
タグだけ襲っているので僕は何もしない。
「おいおい!兄ちゃんっ!助けてくれよ!」
「…貴方が自分で蒔いた種です。自分で刈り取らなければなりませんよ」
「っちょ!…頼むよ!頼むって!…っ!…クソっ!…なぁ!?」
「それじゃあ、私たちは行くわね?元気に暮らすのよ?」
「おいおいおいおいっ!…っ!クソがっ!…ぬんっ!……って!本当に行こうとすんなよっ!」
タグは男性達と戦いながらも、
僕とエルナに声をかけ続けていた。
「何だ?テメーらは…タグの仲間か?」
「…は?違うんだけど?」
「ほう…よく見たら、えらい別嬪さんじゃねぇか…お頭は宝石を奪われて機嫌が悪かったからなぁ…この嬢ちゃんも連れていったら喜ばれるな…お前ら!そこの嬢ちゃんも連れて帰るぞ!絶対に殺すなよっ!」
「おうっ!」
今度はエルナにも襲いかかってきたようだ。
だが、心配するまでもなく、
剣を抜き、次々に切り裂いていく。
「んなっ!この嬢ちゃん強ぇじゃねぇか!…チッ…こうなったら奥の手を使うしかねぇな…おい!連れてこいっ!」
そう言った男性のもとに、
一人の女性が連れてこられた。
「っ!クミンっ!?」
「た、タグっ!」
「おーおー、やっぱり、クミンと出来てたのかよ?あ?そんなのお頭が許すとでも思ってんのか!?あ!?」
「た、タグ…ごめんね」
「…っ!クミンが謝ることじゃねぇよ…全部…俺のせいだ…」
「よし!タグ…剣を捨てろ!」
タグは言われた通りに剣を捨てた。
「そこの嬢ちゃんもだ!剣を捨てなければ、この女を殺すぞっ!」
「…殺せばいいんじゃないかしら?」
「は?」
「おぃぃぃぃぃいいい!!」
クミンを人質に取った男性も、
タグも驚いた顔をしている。
「その娘は私の知り合いじゃないもの。どうなろうが私の知ったことじゃないわ」
エルナはそう言うと、
襲ってきている男性達を切り裂く。
「く、クソっ!こいつヤベェ女かよっ!」
「…は?今、何か言ったかしら?」
「チッ!…お前らはその女を捕まえろ…最悪、腕と足は切り落としたっていいっ!」
「おうっ!」
タグを襲っていたやつらも、
エルナを襲いはじめた。
「タグっ!」
「クミンっ!」
タグが剣を拾い、
人質を取っている男性に切り掛かった。
「甘く見るんじゃねぇ!」
キンッ!
だが、強く剣を弾かれ、
タグの剣は遠くへと飛ばしてしまった。
後ろからも襲われてしまい、
タグは両腕を縛られて転がされた。
「クソっ!」
エルナは戦いながらも、タグの近くへと、
誘導されてしまったようだ。
「ぐへへへへへへへへ」
「に、逃げてっ!」
どうしてこうなったんだろうか?
僕はそう考えていた。
人質を取った男性が、
タグとエルナの方へと爆弾を投げた。
タイミングよく下がっていく男性達を見て、
連携がよくとれているんだなと思った。
急に投げつけられた爆弾に、
エルナも対応できていないようだ。
「う、嘘だろっ!」
「っく!」
僕は跳んで爆弾を掴み、
空へと投げる。
空で大きく爆発した。
欠片がパラパラと落ちてくる。
「っな!」
エルナもタグも…人質を取った彼らも、
驚きからか全く動いていない。
「…申し訳ありませんが、邪魔なのですが?」
「へ?」
「…別に…何をしようと勝手だとは思うのですが…僕を巻き込まないでもらえますか?」
「は、はい…」
「タグ…宝石と彼女のどちらが大事なのですか?」
「そ、それはクミンに決まってるだろっ!」
「なら、宝石を返してください」
「なっ!そ、それはっ!」
「貴方も宝石が返ってくるのなら、もう用事はありませんよね?彼女を返してもらえますか?」
「…だ、だが!お頭が何て言うか…」
「タグを殺して奪い返したと言えばすむ話ではないのですか?」
「…だ、だが…首を持って帰えらないとだな…」
「それなら爆弾で殺したので、死体もバラバラで持ち帰れなかった…とでも伝えたらいいのではないですか?」
「…そ、そう…だな」
「彼はそう言ってますが?タグはどうされますか?」
「クミンを…クミンを無事に返してくれるなら…宝石は返す…」
「…なら、これで解決でよろしいですか?」
「ああ…」「わかった…」
タグと人質を取った男性は同時に答えた。
「エルナもそれでよろしいですね?」
「…邪魔しないなら別にいいわ」
「…そうですか」
僕はタグから宝石を受け取り、
人質を返してもらう。
「おめーら!そういうことだと!タグは死んだっ!わかったなっ!」
「お、おうっ!」
「バラしたら…わかってんだろうな?」
「お、おうっ!」
「よしっ!退くぞ!」
彼らはゾロゾロと帰っていった。
「クミンっ!」
「タグっ!」
「わ、悪かった…俺のせいで…クミンに…怖い思いさせちまってよ…」
「ううん。大丈夫…タグが殺されなくてよかった…」
二人は抱きしめ合いながらも、
無事を確かめ合っていた。
「本当は…クミンに…宝石をあげたかったんだけど…」
「タグがいたらそれだけでいい!…私…宝石なんていらないよ?」
「クミンっ!」
タグはまた強く抱きしめる。
「…ねぇ、そういうの誰もいないところでやってくれないかしら?イラッとするのよね」
「…す、すまん」「…ご、ごめんなさい」
エルナが水をさした。
「兄ちゃん…ありがとな…。兄ちゃんのおかげでクミンを失わずにすんだ」
「…別にかまいませんよ」
「タグを…タグを救ってくれて、ありがとうございますっ!」
「…気になさらないでください」
そう言ってから、僕は歩きはじめる。
「ちょっ!ちょっと!兄ちゃん!どこ行くんだよ?」
「…街に向かっているだけですが?」
「あ、そ、そうか…」
タグはなんとも言えない表情でそう呟いた。