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「…そう言っていますが?」
僕が先生に尋ねると、
唾をゴクリと飲む音が聞こえた。
「ど、ドン。どきなさい…」
「せ、先生!だって、だってっ!」
「私は人として踏み越えてはいけない一線を超えたんだ…だから、ドン…お前は超えてはいけないよ」
「先生…言ってる意味が…言ってる意味がわかんねぇっすよっ!」
「…そうだな。うん、そうだな。わからんよな…だが、それでいい。わからないままでいてくれ」
「な、何だよそれ…意味わかんねぇっす!」
「なぁ、頼みがあるだが…」
「…何でしょうか?」
「…ドンは…ドンだけは…許してくれないか?私の…街での仕事を手伝ってくれていただけなんだ。ドンは本当に何も知らない。ドンは無関係なんだ。だから、頼むっ!どうか…ドンだけは…」
「…約束はできませんよ?」
「ああ、それでかまわない。ありがとう…。さて、ドンよ。私は彼らと行かねばならない…」
「な、何でだよ!ちゃんと話してくれよっ!」
「…すまない。だが、今まで…多くの知識を与えてきたつもりだ。私がドンを救ったように…今度はドンがこの街を救うんだ…」
「ど、どうして…そんなこと言うんだよ…ま、また帰ってきてくれんだろっ!そうだよな!?先生!」
「…いつか…いつか…帰ってくる。それまでだ。だから、な?頼めるか?ドンよ…」
「…何で先生がお客人と行かなきゃいけないのかはわかんねーけど…でもっ!約束だかんな!絶対…絶対に帰ってきてくれよな!先生っ!」
「…わかった。じゃあ、行きましょうか」
「わかりました」
「ドン!頼んだぞっ!」
「っ!はいっ!」
ドンは涙を堪えながらもそう答えた。
僕は先生と一緒に街を出て、丘を登る。
「…ここからなら街が一望できるだろう?」
「そうですね」
「…私はこの街を救うことで…罪から逃げていただけなんだな…だが、やはり禁忌を犯すものではないな…」
「…貴方一人がした訳ではありませんよ」
「…そうだな。だが、加担したのは事実だ」
「…そうですね」
「ありがとう。最後にこの街を見させてくれて…そして…本当に申し訳なかった」
先生は深々と頭を下げた。
「はぁ?謝って済むとでも思ってんの?」
「…エルナ」
「いや、まだ言わせてもらうわ。アンタのせいで…いや、アンタ達のせいでどういう目にあったかわかってんの?街を救って罪から逃げる?ふざけんじゃないわよっ!アンタ達の罪を私は絶対に許さない!」
「…本当に…本当に申し訳ない」
「だからっ!謝んじゃないわよっ!イライラするわね…私がやってもいいかしら?」
「…かまいませんよ」
「そう…。ならお言葉に甘えるわ」
エルナはそう言うと剣を抜き、
先生の右腕を切り落とした。
「ぐぅぅぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
「その程度の痛みで鳴きすぎじゃないかしら?」
「ぐぅぅ…すまない…ほ、本当にすまない…」
先生は右腕を押さえながら…
涙を堪えながらも謝り続けている。
「…はぁ…もういいわ。貴方がしたことは許されることじゃない…それはわかるわね?後悔しながら死ねばいいわ。後はお願いね」
「…すまない…本当に…すまない」
「…途中で投げ出さないでくださいよ。全く…その状態ですからね…もう言い残すことはありませんね?」
「…ああ、本当に…申し訳」
話している途中でエルナが首を切り落とした。
「…エルナ」
「これ以上、声を聞くのも耐えられなかったわ」
「…はぁ…そうですか」
「貴方はよく耐えられるわね?私よりも」
「エルナ!」
「っ!…ご、ごめんなさい」
「…はぁ…もういいですよ。ですが、これ以上その話を続けたら…わかっていますね?」
「…わかってるわよ」
「…それならいいです」
僕は目の前に転がっている先生を、
ただじっと眺めていた。