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「ねぇ、食べないの?」
エルナが僕にそう聞いてきた。
「…どうですかね」
「別に私の前なら気にしなくてもいいんじゃないかしら?」
目の前には今、殺した魔物が転がっている。
「…食事が必要ならそうしますよ」
「そう…。普通の人の前で魔物なんか食べてたら引かれるものね…そもそも食べられる人間なんていないんだもの。魔物を食べたら死ぬんだから」
僕は何も言わない。
「でも、私は魔物を食べてる貴方も好きよ?」
「…いつまでついてくるんですか?」
「いつまでも…かしらね?」
「貴女は貴女の好きな様に生きればよろしいのではないですか?」
「私は好きな様に生きてるわ」
「…そうですか」
そろそろ次の街に着くころだろう。
「…勝手についてくるのは、かまいませんが…貴女と行動を一緒にするつもりはありませんので」
「わかってるわ。貴方は好きなように生きればいいの。私はただそばにいるだけだから…」
それからは何も話さずに街に着いた。
「先生〜!こっちもお願いします〜!」
「わかったわかった!すぐに行くから、待ってなさい」
若い男に呼ばれて医者の様な男が歩き、
僕の前を通り過ぎた。
「この子が怪我しちゃって…」
「そうかそうか…痛かったなぁ」
「うぇーん」
泣いている子供の手当をしているようだ。
「よしっ!これで大丈夫だぞ!」
「う、うん…っひく…ありがとぉ」
子供の手当が終わった医者の様な男は、
僕達に気付き、話しかけてきた。
「ん?君たちは…旅人かい?」
「…はい」
「そうか!こんな何もない街によく来てくれたね」
「…たまたま通りかかっただけですよ」
「それでも、私は嬉しいよ!もしよかったら、ウチに来ないかい?お茶ぐらいなら出すよ?」
「そうですよ!せっかく旅のお方が来られたんすから!先生は本当にすごいんすよ!どんな怪我も病気も治すことができる人なんすから!」
「へぇ〜、それはすごいわね」
「でしょっ!俺っちは先生のこと、尊敬してるんすよ!」
「こらこら、ドン?私だって治せないこともあるんだよ?」
「いや!先生は今までだってどんな怪我も病気も治してきたじゃないすかっ!」
「それは運が良かっただけさ」
「またまた先生は…そうやって…」
「それで…どうだろうか?もしよければ…旅のお話も聞かせてもらえると嬉しいんだが…」
「…わかりました」
「ありがとう。では、ドン…案内してあげて」
「わかりやしたっ!こっちっす!」
ドンに案内され、先生の家へと向かった。
部屋の中は沢山の書類に溢れており、
医学を学んでいることが目に見えてわかる。
「汚いところで悪いね」
先生は申し訳なさそうにそう言った。
「いえ…勉強熱心なのですね」
「そうだね…。日々、どんな病にかかるかわからないからね。私が知ることで元気になる人がいるのなら…時間を惜しみはしないよ」
「…そうですか」
「こちらお茶っす」
ドンがテーブルの上にお茶を置いてくれた。
「ドン、ありがとう。どうぞ、飲まれてください」
「…ありがとうございます」
僕はお茶を一口飲んだ。
「ど、どうすか?」
「…どう…とは何でしょうか?」
「えっ!あ、あの…その…」
「ははは!…悪いね。ドンはこうしてお客様にお茶を喜んでいただけてるのか気になって仕方ないんだよ」
「ちょっ!先生!」
「それで、お茶のお味はどうかな?」
「…美味しいと思いますよ」
「マジっすか!やりましたよ!先生っ!」
「そうかそうか!よかったな」
ドンは本当に嬉しそうに笑っている。
「ねぇ、私は街を見てくるわね」
そう言って、エルナは出て行った。
「…何か気分を害してしまったかな?」
「いえ…彼女はいつも自由にしていますので、あまりお気になさらないでください」
「そうか…」
「先生!すみません!ウチの父がっ!」
街の人だろう。突然、扉を開けて声をかけてきた
「お客人…申し訳ない。仕事が入ってしまった…」
「いえ、かまいませんよ。もしよろしければ僕も同行させていただけますか?」
「ああ、それはかまわないよ」
「先生っ!ほら、早く行こうぜっ!」
「わかったわかった!…では、行こうか」
体調が悪くなった男性の元へと、
一緒に移動した。