10
僕はお爺さんと一緒に館の中を歩く。
周りでは盗賊団と衛兵、傭兵が戦っている。
どちらなのかわからないが、
死体が転がっている。
「何故、殺し合わせばならんのか…」
お爺さんはポツリと呟いた。
「お、おい!あんた!何やってんだっ!そいつは盗賊団のお頭だぞっ!」
「…違うのではないですか?」
「な、なんだとっ!?」
「人質に取ったところで襲われているじゃないですか」
「そ、それは…」
「…関係ない人を巻き込むのはやめてください」
「っく!クソっ!」
盗賊と戦いながらも悪態をついている。
「俺は許さないからなっ!っぐは!」
話しながら戦っているから…
盗賊に腹を突き刺されて倒れてしまった。
「くっ!兄ちゃん!大丈夫!?」
「…そちらこそ大丈夫ですか?」
「お、おう!俺たちは大丈夫だぜ!」
「はい!なんとか生きてます!」
傭兵として戦っていた二人と話していると、
盗賊達は僕達が敵なのかどうか悩み出した。
「…では、僕は失礼しますね」
「おう!兄ちゃん!あんがとな!」
僕はお爺さんと歩きはじめる。
「あんな子供まで…戦って生きねばならぬ世界になってしまったのか…」
「そういう世界ではないですか?」
「そうだな…ワシが若い頃とは…もう時代が違うんじゃな…」
お爺さんと一緒に家に帰った。
「わざわざ迎えにきてもらってすまんのぉ」
「…いえ、ご無事でなによりです」
「青年は聞かぬのか?」
「何をですか?」
「ワシが盗賊団と関わりがあったのか…」
「貴方自身が関わりがないと仰っていたじゃありませんか…」
「そうじゃ…ワシは盗賊団の人間ではない。だが、この領主を襲っているのはワシのせいじゃ」
お爺さんが語りはじめた。
「たまたまだったんじゃ…死にかけている青年を助けたんじゃ…マルコ…彼は…そうお主のような心優しい青年じゃった。マルコは真面目でなぁ…ワシの孫娘と結婚してくれてなぁ…幸せに暮らしておったんじゃ…じゃが、あの日…あの日で全てが変わってしまった」
お爺さんは悲しい瞳で語っている。
「領主の息子がのぉ…ワシの孫娘を見初めんじゃ。結婚もしたはずなのにのぉ。それが許せないと殺されたんじゃ。そうマルコから奪ったんじゃよ…それからマルコは変わった。人が変わったように魔物との戦いに明け暮れてなぁ…気付いたら盗賊団を作って…領主を襲いはじめたんじゃよ。だから、盗賊団のお頭の家族というのは本当なんじゃ…じゃが、ワシでは人質にはならん。マルコはもう…もう…」
「…そうですか」
「それってさぁ、自業自得じゃないの?」
エルナがお爺さんにそう言った。
「領主が好き勝手にした結果、襲われてるんなら自業自得じゃない。お爺さんのせいじゃないでしょ?」
「そう…なのかのぉ」
「幸せを奪ったやつから幸せを奪い返すことの何が悪いのかしら?」
「それじゃ…幸せにはなれぬではないか…」
「私は元々、幸せにはなれないの。そういう人間だっているんじゃないかしら?」
「…エルナ」
「…わかったわよ」
「お爺さん。僕には何もわかりません。マルコさんの気持ちも…お爺さんの気持ちも…。幸せを奪われた人間が…どうしたら幸せになれるのかも…ですが、幸せにならなければならないのでしょうか?マルコさんは復讐をすることで生きていられるのではないですか?」
「そう…なのかも…知れんのぉ」
「マルコさんはマルコさんの人生を生きています。でしたら、貴方も貴方の思うように生きたらいいのではないですか?」
「そう…じゃな」
お爺さんはそう呟いた後に、
何かを決意したような顔で僕を見つめた。
「お主に何でこの話をしたのか…わかったかもしれん。ワシはマルコに会いにいく。復讐なんか終わらせて…ワシと幸せに暮らそうと…伝えてみるつもりじゃ…」
「…そうですか」
「その時は…お主も…一緒に暮らさぬか?」
優しい声で、そう言ってくれた。
でも、僕は…
「ありがとうございます。ですが、僕はこの街に居続けるつもりはありません。お気持ちは嬉しいのですが…」
「…そうか。お主もまた抱えているものがあるのじゃな…」
それからお爺さんは何も言わなかった。
「では、青年よ…いつか…いつかまた会える日を楽しみにしているぞ」
「はい…」
「ワシはもう行く…元気で暮らすのじゃぞ」
「はい…ありがとうございます」
「ではな…」
お爺さんはそう言って、
歩き去っていった。