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この作品を読もうと思ってくださったこと

とても嬉しく思います。

お楽しみいただければ幸いです。

ガタンゴトンッガタンゴトンッ


馬車を走らせ隣街へと向かっている。

今回は護衛をつけることができなかった。

だから、私は魔物に襲われないよう、

急いでいるのだ。


街から街へと商品を入れ替えながら、

売り渡り、生活をしている行商だが、

魔物や盗賊に襲われて命を落とす者もいる。

私はそんなことには絶対になりたくない。


ガタンゴトンッガタンゴトンッ

ヒヒーンッ!


馬の鳴き声で、

横から魔物が襲ってきていることに気付いた。

しまったっ!


急いで魔物を避けるようにするが、

間に合わない…

私はここで終わってしまうのか?


そう思った瞬間に魔物が弾け飛んだ。


白い…いや、銀髪だろうか?

青年が魔物を殴り殺してくれたのだ。

何故、こんなところに青年がいるのだろう?


馬車を止め、私は彼に話しかけた。


「助けてくれてありがとう」

「いえ…」


彼はそう一言だけ答えた。

そのまま街の方へと歩きだしたので、

私はまた話しかけた。


「待ってくれっ!君はすぐそこの街に向かっているのかい?」

「…そうですね」

「もしよければ一緒に行かないかい?君ほどの強さがあるなら護衛として雇わせてもらいたいのだが…」

「…いいのですか?」

「もちろんだ!こちらこそいいのかい?」

「僕は…かまいませんよ」

「そうか!助けてくれた上に護衛までお願いしてしまって悪いな…感謝するよ」

「いえ…」


彼に馬車へと乗ってもらい、

隣街へと馬車を動かす。

護衛がつくのならあそこまで急ぐ必要はない。

馬に無理をさせてしまっていたので、

少しだけゆっくり進むことに決めた。


「街には何か用があったのかい?」

「いえ…僕は旅をしているだけです」

「そうか…」

「…行商ですか?」

「あぁ、私は仕事で隣街へと行くところだったんだが…今回は護衛がつかまらなくてね…君に助けてもらえなかったら死んでいたところだったよ…本当にありがとう。私はマイルだ。よろしく頼む」

「こちらこそ…よろしくお願いします」


彼は静かにそう答えた。


本当ならここで休むつもりもなく、

走り続けるつもりだったのだが…

彼がいるのなら少し馬を休めよう。


「そろそろ休んでもかまわないかい?」

「かまいませんよ」

「ありがとう」


馬車を止め、馬を休ませる。


「ここで野宿をしてもいいかな?君を頼りにするのも悪いとは思うんだが…馬を休みなく走らせてしまってね…」

「かまいません。休ませてあげてください」


彼はそう言うと、馬を優しく撫でてくれた。


「ありがとう」


馬にご飯を用意して、自分達のご飯も用意する


「君も食べるだろう?」

「よろしいのですか?」

「もちろんだ。沢山食べてくれ」

「ありがとうございます。いただきます」


彼は私と一緒に食べてくれた。

だが、こうして見ると…


彼がまだ若いことに気付いた。

20代半ばぐらいだろうか?


彼程の強さがあるのなら、

傭兵をしていてもおかしくはないが…

旅をしていると言っていた。

何故、旅なんかしているのだろうか?


「君は何故、旅をしているんだい?…いや、話したくないことなら、話さなくてもいいけどね。何か目指している場所でもあるのかい?」

「いえ…特には…」

「そうか…」

「はい。風の吹くままに… 行き先を決めていますので」


彼はそう言うと静かに空を見上げた。

空はもう星が綺麗に輝いていた。


ガタンゴトンッガタンゴトンッ


彼のおかげで馬を休ませ、

私もゆっくりと休むことができた。

気になさらないでくださいと言う彼の言葉に甘えて、

ぐっすりと眠ることができた。

朝起きて、魔物の死骸を見つけた時は、

ヒヤッとしてしまったが…


「君は休むことができたのかい?…私ばかり休ませもらって…申し訳ないと思ってな…」

「気になさらないでください。一人で旅をしていますので、慣れているんですよ」

「そうか…」


一人で旅をしている…

その言葉に色々と考えてしまった。

魔物だけじゃない。

盗賊や山賊など命を狙ってくるものは数多くいる。

そんな過酷な環境の中、

一人で旅を続けているんだろうか?


私は彼のことをまだ知らない。

知らないのだが、恩はある。

命を救ってもらった恩が…


「君が…君がもしよければなんだが…私と一緒に旅をしないか?…私は街から街へと行商を続けている。何処へ向かってもかまわない。だから、君が行きたい方へ行くといい。だから…私と…」


私は何を言っているのだろうか?

人の心配などしてる余裕などない。

だが、何故だろう?

彼をこのまま一人にしてはいけないと、

もう一人の私が語りかけてくるのだ。


「ありがとうございます。ですが…」

「君も馬車で休むことができるだろう?もちろん…護衛を頼むことになるとは思うが…雇わせてもらった報酬だって多く渡す…だから…駄目だろうか?」

「ありがとうございます。マイルさんはお優しい方なのですね」

「っ!」

「僕一人では貴方をお守りできる保証がありません。一人ではどうしても対応しきれないこともあります。やはり、僕ではなく…ちゃんと護衛を雇われた方がよろしいのではないですか?」


その通りだ。

一人で出来ることなど限られている。

今回はたまたま大丈夫だったとして、

次からも大丈夫だと言える保証はない。


「そうなのだが…だが…」

「マイルさん。僕は大丈夫です」


彼の言葉に…私は何も言えなくなった。


街に着くと、彼は馬車から降りた。


「ありがとうございました」

「いや、お礼はこちらが言うべきだ。本当に助かった。ありがとう」

「いえ…思っていたよりも早く着くことが出来ましたので…」

「そうか…」

「では、僕はこれで失礼しますね」

「あぁ…」


彼は街の中へと歩いていく。

彼の後ろ姿に私は声をかけた。


「君のっ!君の名前を教えてはくれないかっ!?」


ゆっくりと振り返り、彼はこう言った。


「…名乗るほどの者ではありません」

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