豆柴、悩む
俺は助けようか迷っていた。
あの雨の日、小屋に落雷が落ちたらしく、冒険者達は重度の火傷をし、苦しみもがき唸声を出していた。
俺は、聖人君子でもなければ、神仏でもない。
踵を返す。
鼻を血のニオイをかすめる。
耳が唸声を捉える。
助けてくれ。
痛い。
誰か。
頼む。
死にたくない。
ギリッと歯がなる。
ジャリッと土がなる。
何回も言う。
俺は聖人君子じゃない。
俺は神仏でもない。
「あ…ぁ…」
ペロ。
ペロペロ。
ペロペロペロペロ。
酷い所だけを、酷い人を先に舐めて治癒する。
「あの…と…きの…」
「すまな…い」
「あ…りがと…う」
「傷…が…」
「っ…エウフロン!大丈夫?」
「…回復魔法ありがとう!」
「犬君、ありがとう。後は、私達が回復魔法で回復出来るから休んでいてね?」
返事すらしないで、俺はスピードMAXでその場を離れた。
「っ!待って!」
「…仕方ないよ…私達は犬君に酷い事をしたんだから。なのに、舐めて治癒してくれた」
「……うん」
涙が溢れた。どうして、涙が出たのか流れたのか分からない。
助けた安堵なのか、助けたのが許せないのか、助けて良かったのか。見捨てれば確実に死んでいたはずなのに。
そう、死んでいたんだ。
一時の感情で見捨てていたら、彼等を見殺しにして…。
『っわ…わぅっ!』
良かった。どうであれ、俺は彼等を助けて良かった…。見捨てていたら死んでいただろう。
それでも、俺はやはり、神仏でもないし聖人君子でもない。
今までは軽快に歩いていたが、トボトボと歩き、水面に映る顔は酷く憔悴していた。
あの日助けたことは正しかったけど、俺の考えが一歩間違えていたら、それを考えるたび吐き気がして食欲は無くなる。
こんな時、友人や親がいてくれたなら良かったのにな。
川の水をペロペロと飲んだら、ノソノソ歩き木陰で休み歩くを繰り返すと、村が見えてきた。
『わぅ(人に関わり合いたくない…)』
ぼーっと眺めていたら聞き慣れた声がした。
「あら!わんちゃん!」
「イヌコロじゃないか」
「久しぶりね」
「元気だったか、イヌ?」
振り返る俺を見て、彼等は走り寄り抱き締めてくれた。
沢山泣いて泣いて泣いて、そして川で身体を洗ってもらい、温かいスープを飲んだ。
そして、何も言わず傍に居てくれた。
「大丈夫か?イヌ」
「まー、旅してれば色々あるしな」
「わんちゃん、大丈夫?」
「どうしたんだろ…」
人の温もりが優しさが、そして直感的に皆と旅をしたいと感じた。
でも、話すことができたら皆は怖がるだろう。
『……わふ…』
「んー…イヌコロ、お前さ何かあったか?」
『わん…』
「悩んでるのか?」
『…わん…』
「旅をして辛いこととかあるだろ?
俺達もさ、話せない悩みやらあるぜ。大量にな。だけど…それをあえて聞かずにいてくれて、ただただ傍にいてくれるだけでかいけつしたりもする。
イヌコロはまさにそれだな。俺達が今はいてやんから」
「急ぎのクエストないしね!」
「そうね。今は急ぎはないしゆっくり野宿を楽しみたいわ」
「分かった!なら、暫らくはイヌと俺達で…キャンプだ!」
「「「やったー!」」」
リーダーは俺を抱き上げウインクした。
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