豆柴、思い立ったが吉日
犬は何が好きなんだろう…。
翌朝、噴水にて喉を潤し、顔を洗い、早朝散歩をする。
平和な朝の風景だな。朝食の匂い、元気な赤ちゃんの泣き声、花に水をあげる子供と父親、散歩する老夫婦等の姿を見れば手を繋いでいた。
違う世界でも朝の光景は、日本と変わらず懐かしさを感じた。
ホンワカでアンニュイな気持になりながら街を散歩した後は、寝床にしてる木に戻り、肉屋で購入したビーフジャーキーを空間収納から取り出し食べてみたら…しょっぱい…俺には無理だ。仕方ないから、八百屋で購入した林檎を食べた。
朝寝をしていたら、いつの間にか昼になり、蒸し鶏屋台に向けて歩き出した。
『わん(こんにちは)』
「いらっしゃいワンちゃん」
『わんわん(ご飯)』
「ふふふ。今日のランチは色々蒸しプレート。鶏肉や豚肉や野菜にキノコを葉っぱに包んで蒸したのに、レモンとすり胡麻とニンニクでタレを作ってみたの」
『わんわんっ(早く早く)!』
お皿に盛られた料理をガツガツ食べる。
蒸されて様々な食材の汁がこれまた美味い!ソースなんぞ要らない!むはー!最高!
「美味そうに食う犬だな…たまには食ってみるか!嬢ちゃんランチプレート!パンとスープも」
「本当ね!私も!」
ガツガツ食べていた俺は気付かなかったが、その日のランチは完売したらしい。美味いから当たり前だ。
腹一杯になり、いつしか屋台の側で寝てしまっていた。
「起きたか犬」
『わ…わん(うん…)』
寝起きに父親の顔はビックリする。
「ほらよ、水だ」
『わん(ありがとう)!』
たんまり水を飲み、再び街散策をするため屋台を後にした。
花屋で頭に花冠を貰い(プリチーな俺が更にプリチーだ)、ベンチにいたカップルからカステラみたいのを貰い(美男美女カップルだが俺のがプリチーだ!)、子供と戯れてから、夕飯のため屋台に向けてまた歩く。
夕日は、この世界も、元の世界も同じだ。
『……』
「あらどうしたの?わんちゃん」
見上げれば、眼鏡がよく似合う老女がいた。
「綺麗な夕焼けね。わんちゃん、何かを思っていたのかしら」
『……』
「何だかね、わんちゃんが今にも消えてしまう感じがしたから話かけたのよ」
申し訳無さそうに微笑む老女。
「わんちゃん、またね」
『わん(またな)!』
消えてしまう感じがした、か。夕焼けはセンチメンタルにさせるからな。
夜の屋台で、ディナーバージョンのメニューを食べた。
「犬は飼い主はいるのか?ハイなら1回、イイエなら2回哭くなり何なりしろ。飼い主は?」
『わんわん(いないぜ)』
「利口な犬だな。良かったら家族になるか?」
『…わん…わん…(ゴメン無理)』
「すまなそうに悄気げるな、犬のくせに(笑)」
俺の頭を乱暴に頭をワシワシすると、オヤジはまた仕事に戻った。
その日の夜、俺は決めた。
明日街を出ると。
朝早く、花屋で花束と、買ったけどしょっぱかったビーフジャーキーを袋に花屋で入れてもらい、俺は街の噂になっていたらしく丁寧に屋台の名前と、黒い子犬より、と店主が書いてくれた。俺は、それを花屋から渡すように言いたくても、話してしまえば……。
『花屋さん、このプレゼントを蒸し鶏屋台のオヤジさんと娘さんに渡してください。コレは手間賃です』
俺が話したことに驚いた花屋は、ビックリしつつ手間賃を受取り金貨だと分かると、俺に返そうとした。
『さよなら。またいつか』
俺はスピードMAXで走り去り、侵入した穴からまた街から出て、振り返らず街を後にした。
「あの、コチラ黒い子犬さんからお別れのプレゼントです」
「え!わんちゃん…」
「俺のせいだ。俺が家族になんざなろうと言わなきゃ…」
「子犬さん。自分で決めたのかなと感じましたし、そんな風に思わないで下さい」
「そうね…わんちゃんは、旅人だから」
「違うだろ!旅犬だ」
「「旅犬…」」
「「「っぷ…あっはははは」」」
読んでいただきありがとうございます。
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