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1.物語の始まり


 リムシディア皇国には巷で大人気の美貌の皇子と4人の従者がいる。



「あ!見て!クラン様にシリル様、それにダーレン様にユーグ様、アイク様もいるわ!」

「はぁ・・・いつ見ても美しいわ・・・」


 あちこちからメイドや侍女の感嘆の声が漏れる。

 今王宮の通路をクラン皇子が従者のシリル、ダーレン、ユーグ、アイクを連れ立って歩いている。

 しかし彼らは周囲の目など気にすることなく、実にくだらない会話をしていた。


「なあ、あのメイドちゃん可愛くね?あっ、あの子は結構な美人じゃん!」

「お前マジで節操ないな。遊ぶにしても相手を選べよ、公爵令息なんだからさ。・・・ダーレン?」


 ダーレンは薄茶色の短髪に赤目の甘いマスクの男だ。それを利用して遊びまくっている。


「わ!カレンちゃん、もう彼氏できてる! この間オレと付き合ってたばかりだよな?」

「・・・はぁ。全く聞いてないな」


 シリルは忠告はするが毎回無視されてしまっている。ちなみにシリルはさらりとした肩まで伸ばした金髪に群青色の切れ長の瞳が印象的だ。どこか中性的な顔をしている。


「シリルもいい加減諦めたら?あいつはそういうやつなんだよ。言うだけ無駄!」

「そうだな。 ・・・そういえばそろそろ手紙を送らないとな」

「えっ!なになに? 手紙って恋人?」


 シリルと話しているのはピンクブロンドの髪に琥珀色の瞳の可愛らしい顔をしたユーグ。

 彼の知らない間にユーグの可愛い顔には似合わない毒を吐かれるダーレン。そしてそれに同意するシリル。ある意味気の毒だ。


「違うぞ。家族に送るんだよ。おれに恋人いるように見えるか?」

「いないね」

「即答かよ!」

「・・・・・・」


 黒髪にブルーグレーの瞳の冷たい容貌をしたアイクは終始無言で歩いている。


「おーい。もうすぐ着くよ。4人は外で待機していて」


 そう皆に声を掛けるのは濃い青の髪に金の瞳の恐ろしく整った顔をしたリムシディア皇国第二皇子クランだ。

 従者4人は心配そうな視線を送るがクランはうなずくだけだ。まるで心配するなとでも言うように。


 今日は第二皇子の妃にと望んでいる野心家のコットバル侯爵令嬢が迷惑なことに王宮に押しかけてきたのだ。第一皇子の妃はゆくゆくは皇妃となり執務など書類仕事もしなければならない。それはやりたくないと、第二皇子の妃の座を狙っているのだろう。

 侯爵令嬢ということもあり無理には追い返すこともできず、もてなすようにと陛下から言われたのだ。


「あら、クラン様。ごきげんよう。わざわざ押しかけてしまって申し訳ありませんわ。しばらく会えなかったクラン様の顔が急に見たくなってしまって・・・お変わりはありませんでしたか?」

「うん、変わりはないよ。心配してくれたんだね。リーネル嬢も相変わらず美しい」

「まあ・・・そんな・・・」


 クランは顔は笑っているが目は笑っていない。完璧な仮面を被っている。しかしそれに気付かないリーネルは美しいという言葉に頬を染める。


「せっかくですからクラン様も紅茶をお飲みになったら? さすが王宮ですわね。紅茶も最高級の味ですわ」

「そうだね。そうしようかな」


 クランとリーネルはしばらく紅茶を飲みながら歓談をしていた。

 するとクランの様子がおかしくなってきた。


「ごめん。ちょっとお手洗いに行ってくるね。ここで待っててもらっていいよ」

「分かりましたわ。待っていますわね」


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