異世界へ行く男
俺の名前は伊勢海斗。至って普通の高校生だ。
運動はそこそこで、頭も悪くない、顔もよくある顔だと思ってる。
これだけ普通だと、何かアイデンティティや特別な力を得たいと毎日思いふけている。
帰り道、スマホを弄りながら家の前の信号を待っていた。
ここを渡ればすぐに家に着く。家に帰ったらなにをしようか考えていると。
ドンッ
と、強く押されたような感覚が背中に走った。
体勢を崩し、車道へ倒れそうになった。
まずい!!と、倒れそうになるのを耐えながら後を向くと、自転車に乗った黒いヘルメットの男が、自転車ごと俺に突っ込んできて、そのまま二人とも倒れた。
自転車に乗った男は俺に覆いかぶさる形で乗ってきて身動きができない。
そこに
フアアアアアアアア
と左の方からけたましいクラクションの音が聴こえた。
左を見ると、すぐ側までトラックが迫っていた。
俺は反射的に目を瞑ってしまった。
―――目を瞑ってから数秒の時間が流れた。
俺は死んだのかと、恐る恐る目を開けてみると、直前でトラックが止まっていた。
「大丈夫か!?」
と、トラックの運転手が青ざめた表情で運転席から降りてきた。
「大丈夫!?怪我とかない!?」
と、近所の人達も寄ってきた。
どうやらトラックのブレーキが間に合ったらしい。
どっと力が抜け、辺りを見回すと―――。
あの黒いヘルメットの男が居ない。
確かに俺にぶつかったし、一緒にトラックに轢かれそうになったはずだ。
だが、周囲を見回しても見つからない。さらにあの自転車も無かった。
「あの、黒いヘルメットを被った人はどこに?」
俺はトラックの運転手に聞いた。
「黒いヘルメット?そんな人見てないぞ。車道に倒れていたのもお前だけだぞ。」
「え……?そんな…。」
俺は耳を疑った。俺と一緒に轢かれそうになった男がいない?そんな馬鹿な…。
「もしかしたら海斗君が死際に見た幻かもしれないわね。」
近所のおばさんがそう言った。
確かにそうかもしれない。自転車で突っ込んでくるなんて普通ありえない。じゃあ背中を押された感覚はなんだ?それも幻なのか?
トラックの運転手はどうやら警察に電話しているようだった。
近所のおばさんはお母さんを呼びに行ってくると俺の家に向かっていった。
多分このまま警察が事情聴取に来るだろう。
ちゃんと真実を話せば何事もなく終わるはずだ。
だが、幻で見た人間に背中を押された、と言って信じて貰えるだろうか。
「うぅ…うぅん…。」
意識が戻る。どうやら気絶していたようだ。
「ここは…何処だ…?」
ヘルメット越しに周囲の光景を見回すと、真っ黒な景色が続いていた。
「あれ…?俺…トラックに轢かれたんじゃ…」
「おもてを上げなさい、選ばれし者よ。」
突然、女性の声が響いた。
ヘルメットの男は声がした方向に顔を向けた。
するとそこには、豪華な衣装に見を包み、神々しいオーラをまとった絶世の美女が―――。