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「――先に二人に自己紹介していた通り、僕はこの国の“最高魔導士”です」
私がベッド上で楽な姿勢になったのを確認すると、シキ様は話し始めた。
「国に頼んでこの町にあった古い屋敷を買い取ってもらって暮らすことにしたのですが、それは近くの森で見つかった新種の薬草の研究のためでした」
そういえば私たちの住む町の中でも外れの方の、小高い丘の上に二階建てのお屋敷がある。私はケガで倒れた後、そのお屋敷に運ばれて……そのまま今に至るってことだ。
「三日前、国の防衛担当から僕に依頼があったんです。“魔物除けの結界を張る道具が、この町だけ他の町よりも倍近くの数の支給を申請されている。正しく使われているか調査してほしい”って」
魔物除けの結界。
この国にある全ての町は、人を襲う魔物を遠ざけるための結界を張ることが国から義務付けられている。
結界は、“聖”の属性の魔法を使える人が直接張る以外にも“聖”属性の魔法がかかった専用の道具を設置することでも張ることができる。
だけど義務の通りに町の周りに結界を張るのなら、国が指定した道具を使わなくちゃいけない。
その結界を張る道具は劣化するから、定期的に各町を担当する役人様が点検して――必要なら交換しなきゃらしいけど、この町だけその道具がたくさん求められ、支給されていたらしい。
「あれ?でもあの魔物は町の中に入って来てたよね……?」
「……うん。町のみんなが、見てる」
私は確かに町の“中”で魔物と闘って……倒れた。それは兄さんも見てたし、こう言ってるから間違いない。
だけど考えてみれば、町には魔除けの結界が張ってあるわけだから魔物が町に入り込んで人を襲うなんてありえない話だ。
実際私もこの町に住んで10年近く経つけど、町の中に魔物が入ってきたのを見たのはあれが初めてだし。
シキ様の話した通りだと、結界を張る道具自体は他の町の倍以上の数がこの町に支給されていたはずなのに、どうしてあの魔物はこの町に入ってこれたんだろう。
「……そう。この町には結界を張るための道具がまだ二年分は残っている“はず”なんです」
「“はず”……?」
兄さんが軽く首を傾げて一部を繰り返すと、シキ様は「それが、」と少し言いづらそうにして、
「僕が見に行ったら、この町に設置されていた結界の道具はどれも古くなっていて……しばらく新しいものに交換されていなかったみたいなんです。しかも、そのうちのひとつは完全に壊れてしまっていて、獣が通り過ぎた痕がついていました」
「えっ?」
思わず私は声を上げた。