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私が寝かされていたのは二階の部屋だったみたいで、ここまで階段を上がってくるような足音がした。
「ユウ!!」
バタンっと勢いよく開いたドアから現れたジュン兄さんが、左足を引きずりながら焦ったみたいにこっちに向かってくる姿に胸がきゅっと痛くなる。
「兄さ――――わっ!!」
私がもう一度ベッドから身体を起こしたとほぼ同時に、兄さんにぎゅうっと抱きしめられた。
元々、身長が高い割には細身な兄さんだけど、最後にちゃんと見た時よりも身体が細く……というより全体的にげっそりとした気がする。
この三日間私にほぼつきっきりだったみたいだから、ご飯もじゅうぶんに食べられなかったんだと思う。
「……迷惑かけてごめんなさい、兄さん」
いたたまれなくなった私は兄さんの身体を軽く押して抱擁を解いてもらいながら謝るけど、どうしても兄さんの顔が見れなくてうつむき気味になってしまう。
それでもちらりと兄さんの方を見てみると、兄さんも私から目を逸らしていて、「迷惑なんかじゃ、ユウ、」と私の名前を呼んで何か続けたそうに口をパクパクさせたけど、結局「……良かった……、……目が覚めて」と言っただけだった。
――兄さん、
――なんて言おうとしたの?
聞きたくても聞けなくて、私も「……うん」とだけ頷いておいた。
口下手で、途切れ途切れに話す癖があるジュン兄さんは、私と話していると時々こうやって言いかけた言葉を飲み込んじゃうことがある。
ほんとはなんて言いたいの?って聞ければ良いんだけど、兄さんが本心で私をどう思ってるか聞くのが怖い。
――ジュン兄さんが左足を悪くしたのも、実家を出ていくことになったのも、みんな私のせいだから。……兄さんの口からそのことを責められたら、私はきっと生きていけなくなる。
「……いやあ、まさか入れ違いになっちゃうなんて。手間をかけてすみませんでした」
なんとなく重くなった雰囲気を持ち上げるみたいに、シキ様が兄さんに声をかける。
「痛そうな着地でしたけど、ケガはなかったですか?」
「……はい。……妹を助けてくれて、ありがとう、ございました」
深々と頭を下げる兄さんに、頭を上げてください、とシキ様が言って――それから少しバツが悪そうに「……僕“達”は、あなた達に謝らなきゃいけないんです」と続けた。
「それってどういうことですか……?」
私が聞くとシキ様は部屋の隅にあった椅子を二脚用意して、兄さんに座るように促すと自分も腰かけた。シキ様はさっき言ってた、“兄さんが来たら言おうと思ってたこと”を話すのだろう。私も楽な姿勢で聞ける準備をした。