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「ほら、まだ完治してないからゆっくり休んでて」
そう言ってその最高魔導士様は私に横になるように促して、上から毛布をかけてくれた。
「……すみません………」
「ううん、びっくりさせちゃったよね。それよりも君――えっと、ユウちゃんだ。ユウちゃんのお兄さんに、目を覚ましたって手紙を送ろうか」
君の名前をお兄さんに聞いてたの忘れてたよ、と最高魔導士様は苦笑いしながら、私の寝ているベッドの近くにある机でさらさらと手紙を書いて封をして――机の隅に書いてある魔法陣の上に手紙をのせて瞬間移動させた。
「ユウちゃんをここ――僕の屋敷に運んでから三日間、お兄さんはほとんど寝ないで君の傍にいたんだけど、疲れが酷そうだったから一度自宅に帰ってもらってたんだ。……そろそろ家に着いてる頃だろうから完全に入れ違いになっちゃったね」
「……三日も…………」
それだけの間、ジュン兄さんは私の傍にいてくれたんだ。私があのまま死んでても後の対応とかで迷惑をかけただろうけど、結局生きてても私は兄さんに負担をかけてばかり――。
「……ユウちゃん?」
最高魔導士様が心配そうに私を見ているので、「なんでもないです、すみません」となんとか涙をこらえる。
「……あの、最高魔導士様は、」
「あ、堅苦しいから名前で呼んでくれると嬉しいかな。実は僕、最高魔導士になったばかりでまだ慣れてなくて」
私より年上そうな人だけどはは、と照れたように笑う姿がぐっと幼く見えて、ちょっとだけ私の緊張が緩んだ。
「……シキ……様は、どうして私を助けてくれたのですか?」
“正しい時に”、“正しい魔法を使う”。それが最高魔導士の決まりごとのはず。
自然の災害や大規模な火事で大勢の人が傷ついたとか、国全体が頭を悩ませる盗賊団が町を襲いに来るということがない限りは、治療や防御魔法などを中心に扱う“聖”最高魔導士が平民の前に現れることなんてまずありえない。
たまたま立ち寄った町で瀕死の私を見かけて、やむを得ず助けたのだとしても、最低限の処置だけしてあとは町の医者に任せてしまうはず。
「……そうだね。そのことは、ユウちゃんのお兄さんがまたここに来た時に言おうと思ってたんだけど、」----ドシン!!!「うわ、なんだ!?」
シキ様が話し始めてすぐ、外で何かが落下するような衝撃音がした。シキ様は手を伸ばして私を庇うような素振りを見せたけど、すぐになんてことないのが分かったみたいで、窓の外を覗きに行った。それから驚いたみたいに、「お兄さんだ……」とつぶやくのが聞こえる。
「お兄さんが家の前に立ってる。……さっき手紙を送ったばかりなのに」
「兄さんは風の魔法が使えるから、文字通り飛んできたんだと思います。兄さんは自分宛の手紙が届く魔法陣を紙に書いて持ち歩いてるから、すぐに気づけるだろうし」
――それにしても兄さん、音からしてすごい勢いで来たみたい。
――足、なんともないと良いんだけど……。