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「……ごふっ」
――そこまで子供時代を思い出して、私はまた血を吐いて、とうとうその場に倒れこんだ。
突然私たちの住む町にやってきた魔物は、魔法を使える人たちでも倒しきれなかった。それを私一人で戦うなんて考えもしなかったけど、対応に来た自警団をすり抜けて小さな女の子に襲い掛かる魔物を見たら放っておけなくて、自分でも無意識のうちにたまたま傍にあった露店に並ぶナイフを取って走り出していた。
襲われそうになっていた女の子の前に私が出るとすぐに、腹を鋭い爪に貫かれた。
そこで一度目の吐血をしたけど、どうにかナイフを握った腕ごと魔物の喉に突っ込んでそのまま身体を内側から掻っ捌いた。
「お姉ちゃん!」
「ユウ!!」
魔物が骨を残して消滅する。
倒れた私に駆け寄る今助けた女の子と――左足を引きずりながらこっちに来たジュン兄さん。
――ああ私、
――兄さんにあれ以上迷惑かけないために、強くなったのになあ。
私が町の真ん中で死んだら、後の対応とか色々大変だよね。
でもこれで、魔法の使えない私をお父様達から庇ったせいで、家から出ていくことになった兄さんも帰れるよね。
私と違って兄さんは強い魔法が使えるし、とっても優しい人だから、家にさえ戻れれば素敵な結婚ができるんだろうなあ。
――兄さんあのね、
――前に聞かれた時は答えられなかったけど、
――ほんとは私……
「……うん、これはすごいね」
遠のく意識の中で知らない男の人の声と、身体が持ち上げられる感覚がした。
「ちょっとごめんね……急がないと」
視界がぼやけてよく分からないけど、星みたいに瞬く銀色と――宝石みたいなふたつの赤色が光ったのが見えた。
――兄さんあのね、
――ほんとは私、
――お嫁さんになりたかったの。
――魔力の相性とか気にしないで、私を選んでくれる人と出会って、愛されてみたかったの。
――あのロマンス小説みたいに。
「――きれい…………」
煌めく銀色に向かって思わずそう呟いたところで、私はとうとう目の前が真っ暗になった。