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……私、何か変なこと言ったかな?
今自分が言ったことを思い出してみるけど、特に何も……。
特に、何も……
「……あっ!!」
改めて自分の言ったことを思い返して、気づいた。
“シキ様と二人きりで夜を過ごしたい”。私は確かにそう言った。
――思いっっきり変なこと言ってた!!
仮にも嫁入り前の女が知り合ったばかりの、恋人でもない男性に向かって、“二人きりで”“夜を過ごしたい”なんて、正気の沙汰とは思えない。
しかも相手は国が誇る“最高魔導士”様だ。お金と権力目当てに誘惑しようとしたって思われたらどうしよう……!
「ユウちゃん、あの、そういうお誘いはもっとお互いを知ってから……って、そういう問題でもなくて、」
「違うんです、違うんです……ごめんなさい!!」
やんわりと対応してくれようとするシキ様に私は必死で弁解……しきれずにひたすら頭を下げた。さっきシキ様と意図せず見つめ合ってしまった時よりも、顔を真っ赤にしている自信がある。
「今のはそういう意味なんかじゃなくて……!」
結局このあと、
“兄さんに一人でお店を任せてしまうから夜だけでもしっかり休んでほしいし、毎晩つきっきりで傍にいてもらったら申し訳なさで私も治療に専念できない”、と言いたかったのだと半泣きで訴えることでどうにか納得してもらった。
シキ様はそうだよね、とまだ赤面しつつも朗らかに笑って許してくれて、兄さんも少し戸惑ってはいたけど、それなら、と三日に一度だけ様子を見に来てくれると言ってくれた。
危うく、何か大切なものを犠牲にするところだったけど、これで兄さんに内緒で“あのこと”をシキ様に相談できるチャンスを掴んだ。
――何はともあれ、
――どうかこの綺麗な人との出会いが、素敵な奇跡になりますように。
ちら、とシキ様の、銀髪が揺れる横顔を眺めながら、お祈りしてみる。
そこからもう一度窓の外を見てみたら、曇り空の間から少しだけお日様の光が差し込んでるのが見えた。