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「今回のユウちゃんの大怪我は、国の方に非があるからね。ケガ自体の治療はもちろん、その跡が消えるまで僕が責任を持ってやりますって話をしたんだよ」
「でも、町でも顔や身体に傷跡が残っている人を見かけますし、私はあんなに腹を深く貫かれたのにそんな傷跡が消えるなんて――」
すぐには信じられない。
正直、自分の傷跡を確認したわけじゃないけど、お腹に力を入れるとまだじくじくと痛むし、そもそもシキ様の“聖”魔法で治療されなければ死んでいたくらいの重傷だったのは間違いないのだから。
「確かに、“聖”魔法だけなら怪我自体の治療はしてもその傷跡を消すところまでは干渉されない。
だけど、正しい知識と技術、それと傷口に合う相応の量の薬草さえ揃えて“聖魔法”をかけ合わせればそんなに難しいことじゃないんだよ」
穏やかな口調はそのままだけど、どこか力強さを感じさせる声でシキ様は言う。
「ユウちゃんのお腹の傷跡を消すための薬草も、じゅうぶんな量を国に用意してもらったし――それを扱うための知識も技術も僕の“ここ”に叩きこんである」
そう言って自分の頭を指さしてシキ様はへらりと笑った。
なんだろう、ただ緊張感がないと言ったらそれまでだけど、この表情を見ているとほんとに大丈夫なんだって思えてくる。
この人なら信じても大丈夫。……多分。
「……そうしたら、ユウは、しばらくここに……?」
ジュン兄さんが聞くとシキ様がそちらを向いて「はい、」と頷いた。
「僕はここには引っ越してきたばかりですが、すでに治療に必要な設備や薬もそろっています。傷痕を消すための処置は自宅からの通いでもできますけど、そもそも怪我自体の治療がまだ終わってないので、あと二週間ほどここにいてもらえれば」
「……二週間。分かり、ました」
真剣に話を聞くジュン兄さんだけど、時々左足を軽くさすっているのが私は気になる。
――天気によっては、昔に怪我したところが痛むんだっけ。窓の外の天気は……曇っている。だからあんまり調子が良くないのかもしれない。
――そうだ。
――私のお腹の傷が綺麗に治るのなら“アレ”だって…………。
「念のためお伝えしておきますが、この治療に必要な費用は国が全部負担します」
「……え?」
「全部国に非があるので当たり前のことです。
ユウちゃんが仕事をしているなら治療してる間に稼げたはずの分をこちらで支給しますし、必要ならお兄さんの分の生活費も出させますのでユウちゃんの治療が終わるまでここに滞在してあげてください」
「……じゃあ、それで、」
「っ、待って!!」