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「……その時点で魔物がこの町に侵入してしまったと分かり、僕は慌てて駆け付けましたが――町の中心に着いた頃にはもう遅く、ユウちゃんが魔物と相討ちになったところでした」
――結界の道具が壊れていて、魔物の侵入を許してしまっていた?
結界が私たちを魔物から守ってくれるのが当たり前だと思っていたけど、知らないうちに危険に晒されていたと思うとなんだか怖くなるし――実際、安全だと思って暮らしていた私は死にかけた。
でも、どうしてだろう。
この町は他の町よりもたくさん、結界を張る道具を保管していたんだよね?余ることはあっても定期的な交換もできないくらいに足りなくなるなんて――――
「……横流し……してる、人がいる……?」
私と同じ疑問を抱いていたらしいジュン兄さんが思いついたように口にしたそれに、シキ様は頷いた。
「はい。誰かが……恐らくはこの町の結界道具の管理を担当する役人が、町に使う分を誤魔化してどこかに横流し――売りつけていたんだと思います」
「そんな……大問題じゃないですか!」
その話が本当だとしたら、その役人のお金儲けのせいで私は死にかけて――タイミングによってはあの小さな女の子が被害に合っていたかもしれない。
「……横流しは、役人がやったとは限らないん、じゃ……」
「結界道具は普段は、一般人にいたずらされないように魔法で隠されています。
正しい場所を把握できるのは専用の確認の方法を持ったそれぞれの担当の町の役人か、僕みたいな“目”自体が特殊な者くらいです。……あ、最高魔導士は権力を悪用しないように国から特に厳しく監視されてるから、僕にはとても出来ないです」
はは、と自虐的に笑ったシキ様に、兄さんはそんなつもりは、と言いつつ満足したように頷いた。
「特殊な目、ですか?」
「うん。見ての通り、ね?」
私が聞くとシキ様が苦笑いしながらちょん、と自分の目を指さす。そこで目が合ったので改めてじっと見てみた。
シキ様の、宝石のように煌めく赤色の瞳。
人間の目の色としては見たことない真っ赤な色だし、シキ様のことはさっき知ったばかりだけど、この人にはこの瞳の色が一番馴染んでいるんじゃないかって感じる。
それに煌めく星のような銀髪を合わせて見ると、夜空の綺麗な部分が全部ここに集まっちゃったんじゃないかって思ってしまう。
「……」
「……」
「……僕の目、不思議だろう?」
「はい。不思議なくらい綺麗な目です」
「……」
「……」
「……あんまり見つめられると恥ずかしいなあ」
「えっ?あっ、すみません!」