表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

援助交際からはじまるハッピーエンド

作者: ゆっくり会計士

道端でおばさんに怒鳴られた。

仕方ないじゃない。歩道が狭いんだから。

おばさんはカバンを歩道の真ん中において、ガードレールにお尻を乗せてケータイをいじってたわけで、あたしは邪魔だなと思いつつ、めいっぱい体を塀に寄せてわきを通り過ぎようとした。そしたらあたしのバッグの紐がおばさんカバンの取っ手に引っかかってカバンが倒れた。

「ちょっと、気を着けなさい!」

ええ、あたしが悪いの?

あんたがちょっとカバンを手元に引き寄せて道をあけてくれればよかったんじゃない?

見るとコロコロ付きのカバンからチューブが伸びておばさんの鼻にくっついてる。

肺がんか何か呼吸器系の病気らしい。ざまあ。この機械はレンタルかな。

「すいませーん」

あたしはカバンを立てて謝った。


 その日、夕子から援助交際に誘われた。

オッケー。ちょうどお金ピンチだったんだ。助かる。

やってきた加藤さんは結構なイケメン。

でも性体験は風俗だけだって。マジ?素人童貞。なんで?

「いや、縁がなくて」

いやいや、周りが放っとかないでしょ。

お互い感じるところを教えあってアドバイスし合ってセックスしたら超気持ちよかった。

「加藤さんうまいじゃん。素人童貞おそるべし」

「きみと肌があったんだよ」

彼は余分にお金をあげると言った。

えー、悪いよー、すごい気持ちよかったし。

だったらこの後食事しようってことになった。


 食事はめっちゃ美味しかった。

「こんなの作れたら毎日幸せだろうな。」

「料理はするの?」

「するよ。加藤さんは?」

「たまにするけど、僕の趣味はこれ」

彼はカバンからナイフを出した。

刃先は10センチくらい。鏡みたいにキラキラしてとても鋭かった。

「ナイフ集めてるんだ。きれーだね」

「ちがう、作ったの」

「え?鍛冶屋?叩いて作ったの?すごーい」

「そいつはグリップに手がかかってるんだ。握りやすくした」

「おう、本当だ。手にピッタリ。かっこいいー」

あたしがやたら感心したら、彼があげるよと言ってくれた。

「また会いたいから連絡先教えてくれるかな?」

「あたしもそれ言いたかったの」

ふたりで笑う。

「こないだ弟がゲームやってて、横で見てたらエンコーする女子高生が出てきたの。おにいさん遊ばない?ってやつ。で、結局その二人は悪い奴にエンコーやらされてお金を巻き上げられてたんだけど、主人公がそいつボコボコにして助けてたの。ついでに女子高生を買ったサラリーマンもボコられてたよ。合意して遊んだだけだって言ったけど『お前はそれを信じたのか!』って言われてさ」

「ええー、そのゲームの世界だと俺はボコられるのか」

「なんでかねー(笑)」

「コンプライアンスってのがあるんだよ。元は『法令順守』の意味だけど、社会規範にも従えってうるさいのが世間にはいっぱいいる。もしテレビドラマで女子高生が援助交際ですごく気持ちいいセックスしてお金を一杯もらって幸せになったら?」

「いいじゃん」

「放送局に『お前の番組は援助交際を推奨してるのか!』って抗議が山ほど来る。だからテレビでもゲームでも援助交際で誰も幸せにならない」

「ええーっ」

「でも現実に起こることにコンプライアンスなんてない。神様がいればあるのかもしれないけど、神様なんていないから」

「そのセリフにも抗議が来そうだね(笑)」


 夜道を歩いてると、目前にバスが止まりおばさんが降りてきた。

コロコロのついたカバンを引いている。

あれ?もしかして朝のおばさん?

近づくにつれて、そうだと確信する。

あたしはカバンからナイフを出して背中からおばさんの脇腹、腎臓のあたりを突き刺した。

おばさんは「ひいっ」と声を上げうつ伏せに倒れた。

顔面をアスファルトにこすりつけ、ひくひくしながら蚊の鳴くような声でうめいている。

あたしは今度は慎重に狭い道をおばさんをよけて、通り過ぎた。

あのおばさんは何で自分を強者だと思ったんだろう。他人を頭ごなしに怒鳴りつけて。ドラマで自分みたいなキャラが死なないから?こんなつまらないことで殺されないから?きっと他人に自分の倫理を押し付けてるうちに、現実世界が倫理的だと勘違いしたんだろうね。

でもあたしは悪いことしてないよ。みんなが払った保険料をしぶとく生きて食い散らかす害虫を安楽死させただけ。


 ポケットティッシュでナイフを拭いて両方バッグに入れる。

スマホが鳴ったので見ると加藤さんだった。

「明日会えるかな」

「もちろん」

やった。うれしい。

帰ったら錆びないようにナイフの手入れをしよう。

そして明日は加藤さんに思いっきりアピールするぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ