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反英雄  作者: AI
第1章 竜殺しの英雄
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第5話 反英雄登場【挿絵あり】

 教会の尖塔の上、鐘が吊り下げられた吹き抜けのアーチ部分に、アルセストとマナレスが堂々と立っていた。

 一陣の風が吹くと、澄みわたる青い空にアルセストの真紅のマントがはためく。


 一連の騒動を見守っていたマナレスたちであるが、こらえ性のないアルセストが騎士たちに盾を投げつけたせいで、結局厄介事に首をつっ込むことになってしまったのだ。

 アーチの柱に寄りかかるように立つマナレスが、肩をすくめて喋り出す。


「やれやれ、やっぱりこうなったか……。だが、あいつらはこのヴレスランドに仕える剣の騎士だ。彼らに歯向かうってことは、国家に弓引くのと同義だよ」


 普通に考えれば、手を出すべき相手ではないのだ。けれどマナレスの忠告を無視して、アルセストは言い放つ。


「そんなことは百も承知だ。だが俺はあの少女を助けることに決めた。彼女は命さえ懸けて守ろうとしたんだ……盾に封印されちまったプリウェンと同じように。そんな少女を見捨てることはできない、お前が止めようが俺は行くぞ」


「……いまさら止めるつもりは無いさ。けど結局助けるなら、わざわざ教会の上まで登らなくてもよかったんじゃないかねぇ」


 マナレスはそうボヤいてみたものの、アルセストがぎりぎりまで騒動を見極めようと我慢していたのはわかっていた。

 そして誰からも見とがめられずことの成り行きを見守るには、ここは悪い場所ではないだろう。

 ただし、ここから一瞬で加勢に飛び込むことができるならであるが……。


 突如現れた邪魔者に混乱していた騎士たちだったが、別の騎士が再びイザドラに剣を振り下ろそうとする。


「おっと、悠長に話してる場合じゃないね……」


 慌てたマナレスだが、この距離ではいまさら間に合うはずがない。

 しかしマナレスは、念のため天井の柱に引っかけておいた命綱のロープを掴むと、20メートル以上ある尖塔から飛び降りる。


 彼は教会の石壁を駆け下り、まるで羽でも生えているかのようにふわりと地面に降り立つ。すると、逆に剣を振り上げていた騎士は悲鳴を上げて逆さに中吊りになった。

 いつの間にかマナレスは、騎士たちの足元にロープの罠を仕掛けていたのである。そのロープが騎士の足を絡め捕ったのだ。


 アルセストも「どっせいっ!」と掛け声を上げて地面に飛び降りた。こちらはマナレスのように優雅とは言えないものの、常人なら大怪我するような高さを軽々と着地する。

 この奇妙な二人の闖入者(ちんにゅうしゃ)に、イザドラを含めた一同は唖然としていた。


挿絵(By みてみん)


 しかしそんな空気を気にも留めず、アルセストはすたすた歩いて堂々と落ちていた盾を拾うと、少し離れたイザドラを見返す。


「あんたの覚悟は見せてもらった。こっから先は俺たち『反英雄』が受け継いだ」


「あんたらが反英雄……!?」


 イザドラが驚いてまじまじと二人を見つめる。

 彼らが探し求めた反英雄だったとは。助けに来てくれたのは素直に嬉しかった。

 しかし――


 こいつらが狂戦士と竜人?

 想像していたのと全然違った。もっと身の丈2メートルを超える化物みたいなやつらを想像していたのに。こんな弱そうなやつらで大丈夫なのだろうか……?

 そんな疑問が頭をよぎる。


 アルセストが騎士たちに向き直ると、彼らに向けて啖呵(たんか)を切った。


「異議のある者は名乗り出ろと言ったな。

 異議ありだ! 武器も持たない娘ひとりに多勢で剣を振りかざすとは、正義の騎士が聞いてあきれるじゃねーか」


 アルセストは腰から下げていた剣を外して騎士たちに向かって投げ捨てると、むんずと右腕を横に突き出す。


「そこの娘の腕を切り落とすというのなら、代わりに俺の腕をくれてやる。ただし、俺の腕はそんなに安くない……来るなら命がけで来るんだな」


 結局巻き込まれることになったか――と思うマナレスだが、口元からはニヤリと笑みがこぼれていた。こうなったら毒食らわば皿までだ、と。


「やれやれ、ちょっと演出過剰じゃないか? まぁこいつら程度、ドラゴンの僕にかかればお茶の子さいさいだがね」


 そんなマナレスの台詞に、イザドラが驚きの声を上げる。


「ドラゴンって……!? なに言ってんだよ!? こいつらは百戦錬磨の剣の騎士なんだぞ。あんたら二人だけで、しかも剣まで捨てて盾ひとつで(かな)うわけないだろっ!」


 イザドラは呆れを通り越して、ふつふつと怒りが湧き上ってきていた。


 こいつら茶化してるのか、それとも頭がおかしいに違いない。反英雄、生きた伝説なんてたいそうな逸話が轟いてたけど、どうせ尾ひれはひれがつきまくっただけなんだ。騎士たちにコテンパンにやられたところで、へーこら言って逃げ出すに違いない――

 いや、ここまでコケにされて騎士たちが逃がすはずがない、こいつらまで巻き込まれて殺されてしまうんじゃ……。


「もういいから、あんたら逃げろよ!」


 二人の身を案じてそう叫ぶイザドラ。

 しかしそれまで静観していた騎士たちが、逃がしはせんとばかりに動き出す。彼女を取り押さえている一人を除いて、残りの五人の騎士たちがアルセストたちを取り囲む。


「茶番はそこまでにしておけ! この()れ者が、名を名乗れ!」


 騎士の誰何(すいか)の声に、アルセストは声高に答える。


「この街に来て、俺たち二人の名前も知らないとは、ずいぶんモグリなこった。覚えておけ、このドラゴンスレイヤーのアルセストと盾の彼女をな」


「か、かのじょぉ~?」


 愛おしそうに盾をなでるアルセストに、イザドラが目を見張る。

 自分の名前を飛ばされて若干ふてくされていたマナレスだったが、イザドラの驚いている姿を見るとこめかみをトントンと叩きながら説明する。


「こいつはちょっと脳味噌がアレでね……」


 しかし、アルセストの名乗りを聞いた騎士の一人が高らかに嘲り笑った。


「その名は聞いたことがあるぞ。この男は竜退治に挑んでおきながら、何百人もの住民と仲間を見捨てて逃げた、咎人(とがにん)よ!

 それ以来、頭がおかしくなっちまったという話だ。今も盾の中に女が生きてるという妄想にかかってやがるのさ。生かしておく必要もない、射殺(いころ)してしまえ!」


 騎士たちは(いしゆみ)を構えると、アルセストに向かって一斉に発射する。


 しかし、なんとアルセストは盾で矢を防ぐどころか、盾に矢が当たらないように背中に隠すと、その飛び交う矢すべてを軽々とかわしたのである。

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