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反英雄  作者: AI
第2章 ハルマゲドンガール
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第1話 魔術師と少女の来訪

 前回の冒険を終えた反英雄たち三人は、アジトの部屋でまったりくつろいでいた。戦いの傷を癒すためにも、休息が必要だったからだ。


 妖精族(エルフ)のマナレスが窓辺から外をのぞくと、晴れやかな空から暖かい春の日差しが降りそそぐ。けれども彼の気分は、決して晴れやかとは言えなかった。


 マナレスは振り返り部屋の中を見渡すと、深く溜め息をついた。

 窓から差し込む陽光が、部屋の中の不気味な石像たちを照らしていたからだ。趣味の悪いことに、その部屋には生きているかと見まがうような、人間やモンスターの石像が並んでいる。


 これらはマナレスが反英雄の仲間に加わる以前に、この部屋の主である蛇乙女クリキュラの趣味で置かれた物だった。

 こんな物を飾ってるせいもあって、反英雄たちのアジトは化け物屋敷と恐れられ、街の住人たちは誰も寄り付かないのだ。


 マナレスは石像を片付けるように度々(たびたび)提案したのだが、クリキュラには全く取り合ってもらえなかった。それどころか挙げ句には、「ここはあたしの家だ、嫌なら出てけ」と言い捨てられてしまったため、マナレスはもはや説得を諦めていた。


「僕たちには足りないものがあるんだ――」


 そんな薄気味悪い部屋の中で、マナレスがそう訴えた。いかにも問題があると言わんばかりの深刻そうな面持ちだ。

 けれども、アルセストもクリキュラもそれに耳を傾けるどころか、完全に無視して自分の作業に没頭している。


 自称ドラゴンスレイヤーのアルセストは、聖乙女の盾を磨くのに夢中だ。乙女のレリーフが描かれたその盾は、すでにピカピカ過ぎるほど磨き上げられているのに、今では浅浮彫りの線一本一本まで丹念にブラシで拭き取っている。

 それどころか時折(ときおり)うっとりと盾を眺めては、「綺麗だよぉ~、プリウェンちゃん」と頬ずりしている始末だった……。


 一方の蛇乙女クリキュラは、椅子に座ったままで頭から生えた蛇を伸ばすと、床に置かれたバケツの中身をグリグリかき混ぜている。バケツの中には灰色の粘土みたいな、ねばつく液体がぶち込まれており、生臭いにおいを漂わせていた。


「僕たちには足りないものがあるんだよ、それが何かわかるかい?」


 マナレスが再びそう問いかけるが、相変わらず仲間二人には響かないようだった。かまわずマナレスは続ける。


「僕たちに足りないもの、それは『萌え』だよ」


 マナレスのその言葉に、クリキュラが椅子から盛大にずり落ちた。逆にアルセストは、ピクリと眉を動かすと静かに呟く。


「萌えか……。もっとプリウェンちゃんとのイチャイチャが必要ということか?」


「全然ちげーよ! 妄想戦士は黙っとれ!」


 マナレスは激しく突っ込むと、熱弁を振るい始める。


「僕らには女っ気が少なすぎるんだよ。こないだのイザドラちゃんも村に帰っちゃったしさ。もっとこう、可愛らしい少女が空から降ってくるとか、ムチムチ美女とのラッキースケベがあるとかさ――僕の人生にはもっとハーレム……彩りが必要なんだよ!」


 マナレスの欲望まみれの発言に、クリキュラがあきれ果てたように冷たい眼を向ける。


「萌えというより完全にエロじゃねーか」


 彼女はそう吐き捨てると、先ほどまでかき混ぜていた粘性の液体に蛇の頭をつっこみ、ゴクゴクと飲み始めた。マナレスが思わず問いただす。


「なに飲んでんのよ!? 大丈夫なのか、その物体は?」


「食事だ」


「しょくじぃ~!?」


「ああ、鶏肉とニシンと、豆と緑黄色野菜、それにパンを細かく砕いて羊のミルクでブレンドしたものだ。栄養素に問題はない」


 マナレスがあっけにとられて尋ねる。


「問題ないって、味には問題(おお)アリだろ!?」


「味? そんなもの栄養摂取に関係ないだろ」


 クリキュラのグルメ全否定の発言に、マナレスは閉口してしまう。いや、むしろ(かえる)とか入ってなかっただけマシなのかもしれないが……。

 一方アルセストが、気になることがあるようで会話に割り込んでくる。


「そういえば、蛇の食ったもんとクリキュラの口とは繋がってるのか? ちょっと見せてみろ」


 そう言うと黄金蛇をむんずと掴んで、無理やりその喉奥を覗きこもうとする。けれどそれを嫌がったクリキュラはアルセストの頭を蛇の口で飲み込むかのように掴むと、思いっきり壁にぶん投げた。

「勝手に人のデリケートな所をのぞき込んでんじゃねーよ!」


 蛇乙女は真っ赤な顔で怒鳴りつけた。



 反英雄たちがそんなやり取りをしていると、急に部屋の中に風が巻き起こる。それは窓から吹き込んできた風などではなかった。

 部屋の中に竜巻のような渦が噴き出したかと思うと、机に置かれた小物や書類をまき散らす。


 アルセストとマナレスはなにごとが起こったのかと慌てふためくが、クリキュラはいたって冷静に部屋の中央を凝視している。

 すると激しい閃光とともに、部屋の中に二人の人影が現れるのだった。


 一人は紺色のローブをまとった魔術師らしき男、もう一人はまだ年端もいかない少女だった。どうやら魔術師の方が瞬間移動の魔法を使って、このアジトにやってきたようだ。


「突然の訪問すまないっス。あんたが蛇女のクリキュラっスか? 僕は魔術師ギルドの第十三席のザザンと言います。以後お見知りおきを」


 その魔術師がなれなれしく挨拶し始める。ザザンと名乗った男は金髪に灰色の眼をした美青年だ。黄色いレンズの眼鏡を掛けており、白と黒の変わった模様が描かれた独楽(こま)を、ネックレスのように首から下げている。

 そして紺色のローブの左胸には、本と黄金色の杖が組み合わされた紋章が描かれている。


 クリキュラはその紋章に見覚えがあった。それは魔術師ギルドの、高位魔術師のみに与えられる階級紋だ。だとすればこの軽薄そうな魔術師は、その若い見た目とは裏腹に、相当の使い手に違いない。

 いや、そもそも集団瞬間移動の魔法を使用できるのだから、大魔術師と呼ばれてもおかしくはないのだ。


「萌えかどうかは知らんが、また厄介事が舞い込んできたようだな」


 クリキュラはそう言うと、膝を抱えて椅子に座り直した。

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