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反英雄  作者: AI
第1章 竜殺しの英雄
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第19話 炎の森の中での戦い

 一方、15人の村人たちを守るため炎の森に残ったアルセスト――


「ここは俺に任せて先に行け」そんなカッコいい感じでマナレスを先に行かせたアルセストだったが、早くもそれを後悔し始めていた。


 森の中は完全に炎に囲まれており、逃げ場はなかったからだ。おまけに騎士たちが付かず離れず執拗に矢を射かけてくる。

 騎士たちの攻撃から村人を守りつつ、炎に巻かれた森の中で安全地帯を探しまわるのは、さすがに気骨(きこつ)が折れた。


 アルセストがお手上げだとばかりに村人たちに伝える。


「あー無理無理、これ逃げ場はねーな……もう逃げるのはやめだ!」


「こんな所であきらめたら、わしらみんな丸焦げになっちまうぞ!?」


 村人たちが悲鳴を上げてアルセストにすがりつく。つい先ほどまでは反英雄たちに襲い掛かってきていた村人たちなのだが……いくらなんでも都合良過ぎではないのか?


 一方、ひとり静かに黙り込んでいた神父様。さすがこういう時でも聖職者は冷静だぜ……とアルセストが感心して見ていたら、胸で十字を切りだし死ぬ気満々の表情で覚悟を決めてしまっていた……。


「お前ら少しはドラゴンスレイヤーを信用しろよ! こっからでも守りぬいてやるよ」


「だが、そうは言っても逃げ場はない。どうするつもりだ……?」


 冷静に尋ねる神父に対し、アルセストは言い放つ。


「逃げ場所がないなら作るまでだ」


 アルセストは村人の一人から斧を取り上げると、力任せに木の幹に叩きつけた。両腕を広げたよりも太い幹を一撃でへし折ってしまう。

 そうやってあっという間に木々を20本も切り倒すと、ちょっとした広場が出来上がった。さらに倒れた木を投げあげて積み重ね、簡易的な防護柵を作り上げてしまったのだ。

 人間業(にんげんわざ)とは思えぬ怪力であった。


「これがほんとの火事場の馬鹿力だな」


 アルセストはそう軽口を独りごちたが、いつもツッコミを入れてくれる相棒の姿はそこにはなかった。


 彼はマナレスを先に行かせたことを後悔していた。

 騎士たちはいやらしい戦法を使って常に先手を打ってくる。おまけにこちらの打つ手はすべて見抜かれていた。

 騎士なんて普通は猪突猛進であしらいやすいはずなのに、その騎士たちを指揮する敵の大将とやらは相当にクレバーで戦い慣れているに違いない。


 だがそれ以上に危惧していたのは、アルセストたちがこの森に隠れていたことが簡単にバレたことだ。尾行されたはずもないのに、あまりに見つかるのが早すぎる……。

 内通者の存在――その疑念が頭をもたげる。


 マナレスは「イザドラが裏切ることはない」と確信を持っていたようだが、今となってはクリキュラの推察の方が正しかったのではないか。それとも敵側にはまだ、アルセストたちの気づいていない力があるのか……?


 とにかく一刻でも早くマナレスとイザドラのあとを追いたい。アルセストは村人たちに向かって声を張り上げる。


「みんなしばらくここに残って耐えてくれ。作り上げた自然の防護柵で弓矢はおおむね防げるはずだ。防護柵が火事で燃え尽きるまでは、しばらく時間の猶予がある。

 その間に俺が騎士たちを各個撃破していく」


 それがアルセストの作戦だった。

 逃げ回る間に敵の数が20人ほどだと把握していた。時間はかかるができない話じゃない。騎士たちを叩きのめした後に、村人たちを連れて悠々と森から脱出する、そう考えていた矢先――


 騎士たちのいた方角から黒い巨大な塊が飛来すると、轟音と共にせっかく積み上げた木の防護柵を吹き飛ばす。村人たちから悲鳴が上がるが、とりあえず怪我人はなさそうだ。

 まるで巨人の一撃でも食らったように、ぶっとい幹が粉砕され吹き飛んでいた。魔法の力か、それとも魔剣使いの騎士団長が直接殴り込みにでも来たのか……。


 アルセストが攻撃の飛んできた方向を見やると、それよりもっと、とんでもない物がやって来ていた。


 それは本来竜退治のために用意された、巨大な投石機(カタパルト)だったのだ――


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 それは巨大な攻城兵器だった。人の背丈以上もある鉄球を、てこの原理で投げつける投石器(カタパルト)――それが2台も用意されていたのだ。

 竜殺しのために騎士団が所持しているのは知っていたが――


「あんなもの火事場にどうやって持ってきたんだよ? それに人間相手に普通打ち込むか!?」


 アルセストが驚いて口をあんぐりと開けていると、カタパルトの方から聞き覚えのある怒声が響いてくる。


「混沌街での借りは返させてもらうぞ!」


 それは混沌街でイザドラの腕を切り落とそうとした、あの騎士隊長だった。


「お前のことなんか誰も覚えとらんわっ! 名前も出てこない雑魚じゃねーか」


 そうは言ったものの、その隊長に今は追い詰められているのだ。


「では思い出させてやろう。我ら『剣の騎士』の魂である剣を砕いた罪は、万死に値する。このカタパルトは竜の鱗さえぶち抜く特別製だ。今度はこちらが貴様の盾ごとコナゴナに打ち砕いてやるわっ! 撃て!」


 騎士隊長が剣をかかげて号令を発すると、カタパルトから巨大な鉄球が発射される。

 カタパルトは本来攻城兵器のため、的中精度はそこまで高くない。ところが今は村人さえ狙えば、それを守るためにアルセストが勝手に飛び込まざるを得ないのだ。


 鉄球がうなりを上げて村人たちに襲いかかる。アルセストは村人たちの前に飛び込むと、聖乙女の盾を構えた。


 鉄球が魔法の盾に直撃し、鋼鉄同士がぶつかり合う激突音が轟くと、アルセストは雄叫びを上げて鉄球を跳ね返す。

 竜の鱗さえ砕くはずの鉄球は空高く跳ね上がると、騎士隊長の目の前にドスンと落下した。彼は悲鳴を上げ、地面をへこますほどのその衝撃に思わず尻もちをついてへたり込む。


「見たか、ドラゴンスレイヤーの力を! 俺はプリウェンちゃんさえいれば無敵なんだよっ!」


 とはいえ、攻城兵器の攻撃を一度は防いだものの、アルセストたちが窮地に立たされていることに変わりはない。

 火の海と化した森に逃げ場はなく、防護柵は砕かれ、ここから先はカタパルトと矢の攻撃が続くはずだ。

 アルセストひとりなら脱出することは容易(たやす)いが、村人たちを置いて逃げ出すことなどできるはずがない。


 ところが村人を代表するように神父様が進み出ると、(いか)めしい顔つきでアルセストに告げる。


「わたしたちを置いて、イザドラの元に行ってくれ」


「急になに言いだすんだ!?」


「そもそも私たちは、君たち反英雄を騎士たちに売り渡そうとしていたんだ。君たちに救ってもらう資格なんてない。それどころか、人としての矜持(プライド)まで捨てた私たちには生きる資格すらないのだ……。

 足手まといなのはわかっている。私たちを置いて、せめてイザドラだけでも助けてやってくれないか」


「ふざけるな! あんたたちはそれでもずっとイザドラだけでも救おうとしてたじゃないか。誰かを守りたいと願うやつが、見捨てられていいはずがない!」


 アルセストは一瞬言葉を切って聖乙女の盾を見つめると、さらに続けるのだった。


「それに二度も守るべきものを見捨てて逃げ出すなんて、まっぴら御免だ――」


 アルセストの覚悟は決まっていた。だが……絶体絶命のピンチであることには違いないのだ。

 そうこうしているうちに、カタパルトの第二射目が用意されていた。さっきまで無様に尻もちをついていた騎士隊長が、立ち上がって吠える。


「先ほどはよくもカタパルトの攻撃を防いでくれたな! だが今度は二つ同時だ、貴様の盾ひとつでどうやって防ぎきれるか見ものだな!」


 騎士隊長の号令とともに、巨大な鉄球がほぼ同時に発射される。

 アルセストは一つ目の鉄球を防ごうと村人たちの前に仁王立ちになる。だがここからでは二つ目の鉄球を防ぐのは無理だ、絶対に間に合わない。


 村人たちの悲鳴が炎の森の中にこだまするなか、アルセストは襲い掛かる一つ目の鉄球を盾でガッツリ受け止めると、その勢いを利用して二つ目の鉄球めがけて投げつける。

 まるでビリヤードのように、巨大な二つの鉄球が空中で激突すると、激しい炸裂音ととも砕け散る。


 まるで曲芸だ――そう目を丸くして驚く村人と騎士たち。しかしその中で騎士隊長は勝ち誇ったように下卑た笑みを浮かべる。


「妄想戦士の怪力は計画に織り込み済みよ! だがここまでは防ぎきれまい!」


 カタパルトとは真逆の方向から、隠れていた騎士たちによって複数の矢が村人めがけて撃ち放たれる。さすがにアルセストの位置からでは間に合わない……。

 今度こそ無理だ、そう村人たちが諦観したとき――


 燃える森の奥から、揺れる空中ブランコのように木から木へと飛び移り、ひとつの人影が村人の前に躍り出たのだ。


 身体をぴったりと覆う黒のレザースーツに、左目には機械仕掛けの眼帯、そして後頭部から生えた一本の長い黄金色の蛇――それは蛇乙女クリキュラだった。

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