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反英雄  作者: AI
第1章 竜殺しの英雄
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第18話 似非ドラゴン退治

「さぁみなの者、似非(えせ)ドラゴン退治の始まりだ!」


 騎士団長ギリエルモのその掛け声とともに、円形に取り囲んでいた50人の騎士たちが、マナレスに弓の狙いをさだめる。


 彼らの技量は確かで、狙いが外れることはないだろう。とはいえマナレスにとってはたかだか50本程度の弓矢など、全て避けきる自信があった。

 二の矢を継ぐ隙を狙い、反撃に転じる――この窮地においても、目の前の騎士に捕らわれたイザドラを救い騎士団長から魔剣を奪い取る、そういう逆転のシナリオを描いていたのだ。


 しかしギリエルモもまた、その程度のことは見抜いていたのだろう。彼が合図の右手を高くかかげると、イザドラを捕らえていた騎士は、なんと彼女をマナレスに向かって放り投げたのだ。


「きゃぁーっ!」


 唐突に空中に投げられたイザドラは、小さな悲鳴を上げながらマナレスの後方数メートルの地点にズサリと落ちる。

 その瞬間、弓を構える騎士たちはイザドラに狙いを変えると矢を放った。50本の矢の雨が、けたたましい矢音を立てながら、狙いたがわず彼女に襲いかかる。


 マナレスは魔法の短剣を抜いてとっさにイザドラに走りよると、彼女を守りながら迫りくる矢を次々に撃ち落とす。

 だが避けるならまだしも、短剣一本で全ての矢を撃ち落とすことなど不可能だった。防ぎきれなかった矢が一本、また一本とズブリとマナレスに突き刺さる。


 矢の雨が終わるころには、マナレスの左腕と背中に深々と3本の矢が突き刺さっていた。喀血(かっけつ)とともに、口の中に苦い鉄の味が広がる。耐えきれず地面に片膝をつきくずおれる。


「マナレス! なんで、なんで助けてくれたんだよ。そんな、死んじゃダメだ……!」


 手足を縛られているせいで起き上がることができないイザドラが、倒れたまま涙声で叫ぶ。だがその声をかき消すように、ギリエルモの罵声が響いた。


「想像以上のウスノロだったようだな。だらしなく逃げ出しておけば、命だけは助かっただろうに。たかが人間崩れの小娘ひとり救うために、命まで無駄にするとはな」


 マナレスは腕の矢を引き抜くと、鋭い目つきでギリエルモを(にら)みつけた。


「えげつないことするね……。今までのは全てあんたの仕業か? 村人たちを僕らにけしかけたのも、その村人ごと森を焼き尽くそうとしたのも、全てあんたの命令だったのか?」


「ギリエルモ、あんた騎士のくせに正々堂々と戦うどころか、姑息な小悪党みたいなまねをして恥ずかしくないのかよ!?」


 イザドラたちの噛みつくような言葉にも動じず、ギリエルモは嘲るだけだった。


「真正面から戦ってももちろん勝つさ。だがそいつらは反英雄――すねに傷持つ無法者だ。地べたを這いずる虫けらと同じなのだ。そんなクズどもと、我々が正々堂々戦う必要がどこにある。

 それに村人どもも同罪だ。反英雄たちを差し出せば村人どもの命は助けてやると言ったら、喜んで尻尾を振って言うことを聞いたぞ。お前らが人々を救おうとしても、誰もお前らを救ってはくれないのだ。そんなものに命を賭けることは無駄だと思わんのか」


 マナレスはゼイゼイと息をしながら答える。


「――思わないね。人間からどう思われようが関係ない。『憎けりゃ殺す、気に入れば助ける』、それが僕ら反英雄の生き様だ。

 それにあんた、悲しい男だね。あんたは誰かに救って欲しかったのかい?」


 マナレスの言葉は、なぜかギリエルモの忌諱(きい)に触れたようだった。苛立(いらだ)ちを隠すこともなく怒号を響かせる。


「ならば望み通り死ぬがいい」


 騎士たちが二の矢を構え放とうとすると、マナレスはニヤリと笑った。この時を待っていたのだ。


 かがり火をゆらす一陣の風が吹くと、50人の騎士たちの目の前からマナレスの姿が消え失せたのだ。それは闇夜にまぎれて見失ったなどというものではなかった。雲散霧消、こつぜんと姿を消してしまったのだ。


 イザドラは思い返していた。そういえばマナレスたちが混沌街で騎士たちを手玉に取った時も、彼はまるで一瞬消えたように見えた。それはまるで魔法のように。


 マナレスは団長ギリエルモに向かって一直線に駆けだしていた。彼は魔法の力で敵の眼をあざむき、姿をくらますことができたのだ。数秒間という短い時間だけだったが、それだけあれば充分だ。


 ハヤブサが獲物を狩るように一気にギリエルモに駆け寄ったマナレスは、恐ろしい早業で彼の腰から魔剣を抜き取った。


 これで勝ちだ――あとはこの騎士団長を人質にして騎士たちを投降させるだけ、そうマナレスが確信した時だった。


 突如マナレスの耳をつんざくかのように、ギリエルモの竜のような咆哮が響いた。

 すると急激にマナレスの全身に恐怖の感情が襲いかかり、手足がガクガクと痙攣しだす。せっかく奪った魔剣を取り落としてしまっただけでなく、力が入らず両ひざを地面について倒れ込んでしまう。


 最期の切り札だった姿をくらます魔法の時間も終わり、マナレスは無様にギリエルモの眼前にくずおれていた。


 いったいどうしたっていうんだ――マナレスの頭の中でグルグルと疑問が渦巻く。

 魔剣は奪い取っていたのだ、だからこれは魔剣の力ではない。この騎士団長には剣以外の何かほかの力があるのだ……。


 それどころか、この男の咆哮は聞いたことがある。竜の咆哮には歴戦の勇者でさえも震え上がらせる力があるというが、これはまさしく竜の咆哮そのものではないか……!


 倒れ込んだままのマナレスが、それでも食らいつこうと必死にギリエルモの足に手を伸ばす。だがギリエルモはその手を踏みにじると、マナレスの身体を蹴り上げ高台から蹴落とした。

 転がり落ちていくマナレスは薄れゆく意識の中で悟っていた。

 「このままではこの男には勝てない……アルセスト、来てはダメだ!」そう声にならない叫びをあげて――

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