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色事師と傭兵団本部

この回から新章に入ります!

 「チャー傭兵団に入ったぁっ?」


 閉店した『飛竜の泪亭』のカウンターで、シレネは素っ頓狂な声を出した。


「は……はい……」


 オロオロしながら頷くフェーン……パーム。


「何を考えてるの、あの馬鹿(ジャス)?」

「さ……さあ……。僕がお客様の接客でてんやわんやしていた時に、ジャスミンさんと、傭兵の方達がカルティンで遊んでいたのは見ていたんですけど……どうやら、その時にそういう話になったみたいで……」


 身につけているメイド服のエプロンのレースをいじりながら、小さな声で答えるパーム。

 シレネは、手を顎に当てて考え込む。


「……外で飲んでた、巨人ともう一人のコンビね……」

「はい……確か、ヒースさんと、ジザスさんと仰る方々です」


(ジザス……確か、ダリア傭兵団唯一の鍵師だった男ね――)


「す……すみません。せっかく助けて頂いたのに、ジャスミンさんが勝手な事をして……挨拶も無しに出て行ってしまって……」


 パームは、沈痛な表情で深々と頭を下げる。

 シレネは、そんな彼にふっと微笑みかけて、優しい言葉を掛けた。


「パーム君が謝る事じゃないわよ」


 そう言うと、彼女はゴブレットのワインをグッと飲み干した。


「無駄飯食らいが居なくなってせいせいするわ……ていうのは冗談だけど。――ま、何を考えてるのかはよく分からないけど……アイツの事だから、何か狙いがあるのだと思うわ」

「狙い……ですか?」


 パームは、首を傾げた。


「――ジャスは、君に何か言っていたの?」


 シレネは、静かな声でパームに尋ねた。

 パームは思い出そうと、視線を中空に漂わせながら言った。


「――いえ、特に。ただ、『ちょっと派手に稼いでくるわ』って言ってた位ですかね……。あ! も、もちろん、シレネさんに『ありがとう』って伝えておくように言われてました、ハイ!」

「……アイツ絶対に言ってないよね、ありがとうなんて(ソレって)


 シレネは苦笑いを浮かべながら――


()()()稼いでくる、って……もしかして)


 ジャスミンの意図を、冷静に見極めようと、頭をフル回転させるのだった。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 翌朝、茶髪の色男と、全身傷だらけの雲衝く大男が、並んで旧ギルド庁の回廊を並んで歩いていた。行き過ぎる傭兵達は、二人の異様な取り合わせに驚きながら、道を避ける。


「ふあああああ……眠い……」


 あくびを噛み殺すジャスミン。


「何でえ、タダの徹夜くらいで情けねえなあ」


 横で苦笑するヒース。


「タダの徹夜って……。お前、どれだけ飲まされたと思ってんだよ?」


 ヒースの言い草に、口を尖らせて抗議するジャスミン。

 ジャスミンとヒース、そしてジザスの三人は、『飛竜の泪亭』が閉店した後にも、別の居酒屋やバーを次々ハシゴ酒して、夜を徹して飲み明かしたのだった。


「いや、大したもんだぜ。俺とサシで呑んで潰れなかったのは、お前で6人目だ」

「お褒めにあずかり、光栄です……て言っとけばいいか?」


 ジャスミンは苦笑しながら言う。

 

「つーか、ジザスのおっさんは大丈夫なのか? 最後の方は、飲みながら吐いてただろ、アレ」

「知るか。その内起きるだろ」

「起きたら、何で自分があんな所(側溝)で寝ているのか、訳分からなくて、混乱するんだろうなぁ……」


 ジャスミンは、その時のジザスの顔を考えてクククと笑う。


「おう。ココだ」


 ヒースが、回廊の突き当たりにある、ヒースが立つと違和感がないくらいの巨大で豪奢な扉の前で立ち止まった。


「ココが、ウチの団長様の御座(おわ)せらるる、謁見の間だ」

「謁見の間――って、ここの傭兵団長様は、国王様か何かかよ?」

「少なくとも、本人サマはいたってその気らしいぜ」


 ヒースは、そう言いながら苦笑いする。


「さてと、開けるけどよ……()()()()()

「は? ビビるって、何を――?」


 ジャスミンの答えを聞く前に、ヒースは重い鋼鉄製の扉を引いた。

 重厚な軋み音を立てながら、ゆっくりと扉が開く。


「へえ――」


 ジャスミンは、『謁見の間』の贅を凝らした装飾に、思わず口笛を吹いた。

 広い謁見の間全体に敷かれた絨毯は、足が沈み込むかと思うほどフカフカしていて、壁面には、豪奢な装飾の施された額縁に収められた大きな風景画や、宝石や金象眼で飾り付けられた武具鎧が並べられている。

 更に、脇に置かれた花瓶類も、繊細な作りの中に雄大な意匠を施し、高貴な雰囲気を醸し出していた。


「おいおい……凄いな。この部屋の中の調度品だけで、城が買えるぞ、多分……」


 ため息を吐きながら、ジャスミンはヒースの後に続いて、部屋の中へと進む。奥の(きざはし)の上には、これまた豪華絢爛な玉座が据えられていた。――が、その座には、誰も座っていない。


「ありゃ、いねえな……」


 ヒースは、そう独り言つと、


「――おおおおおおおおおおおおいっ! 団長うううううううううっ! 出てこおおおおおおおおおいっ!」

「うぎゃっ!」


 いきなり大音声で叫ばれ、ジャスミンは思わず耳を押さえる。


「おいっ! このでくの坊っ! いきなり叫ぶなっ! 鼓膜が裂ける……」

「おう、悪い悪い……」

「う――るっさいわねえっ! そんなにバカでかい声で叫ばれなくても気付いてるわよっ!」


 ジャスミンの抗議に謝るヒースの声を遮って、階の裏から濁声が聞こえた。


「――何だよ、そこにいたのかよ、団長サンよぉ」

「まったく! ホントに顔面通りの無礼な男よね、アンタは!」


 そうぼやきながら、玉座の後ろから現れた男の姿を見て――、


「ぶ――――ッ!」


 ジャスミンは盛大に、いろいろなモノを吹き出した。

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