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巨人と鍵師、そして色事師

 『飛竜の泪亭』の店先に設置されたテーブルに、ジザスとヒースが座る。

 椅子も2脚用意されたが、座るのはジザスのみ。巨体のヒースに合う椅子などは無いので、彼はあぐらをかいて、石畳の上に直接座っている。

 ふたりは、手にした杯を掲げる。――ジザスは普通のジョッキだが、ヒースの手にあるのは、バル(発泡酒)をなみなみと注がれた大きなピッチャーだ。しかし、彼が持つと、巨大なピッチャーが、まるで普通のコップのように見えてしまう。


「ほんじゃま……乾杯」


 そう言って、ふたりは杯を打ち合わせ、一気に呷った。


「……ぷはああ。生き返らあっ!」


 無精髭にバルの泡をつけたジザスは、叫んだ。


「おおいっ! バルをもう一杯頼む!」

「おいおい……もう飲み干しちまったのかよ? ピッチャーだろ、それ」


 早くも、店内に向けておかわりを注文するヒースに、呆れるジザス。


「足りねえよ、こんなんじゃよぉ」

「あ、お待たせしました!」


 フェーンが、店の中からピッチャーを抱えて小走りでやってきた。


「お、早いな。ありがとよ! でも、全然足りねえな……」


 ヒースは、少し考えてから、フェーンに言った。


「なあ、メイドさんよ。バルを樽で持ってきてくれねえか? そうすれば、後は自分(テメエ)で勝手に注ぎながら飲んでるからよ」

「え? バルを、た……樽でですか?」


 ヒースの提案に、目を丸くするフェーン。


「ああ。メイドさんも、いちいち店の中から酒を運んでくるのは大変だろ? アレだったら、俺が自分で酒蔵から運んできてもいいしよ」

「あ、フェーンちゃんが運ぶんだったら、俺も手伝うぜ……手伝うよ!」


 嬉々とした顔で、手を挙げるジザス。

 フェーンは、困ったようなはにかみ笑いを浮かべて、言った。


「え……と。ちょっと、シレネさんに聞いてきま――」

「は――いよっ! バル樽1丁、お待ち~!」


 フェーンの言葉を遮るように、彼らの背後から声がかけられた。

 ジザスとヒースが振り向くと、大きな樽を乗せた台車を押す、若い男が立っていた。


「じゃ――ジャスミンさんッ!」


 フェーンが、素っ頓狂な声を上げる。


「ちょっと……ジャスミンさん、外に出たら……!」

「あー、何だよぉ。いいじゃんかよぉ。俺だって、パーッと騒ぎたいんだよ~」


 ――よくよく見たら、この男も随分といい男だ。舞台の二枚目役者もかくやという整った顔。茶髪に活き活きと輝く黒曜石の様な瞳が印象的だ。

 と、ジザスは、フェーンと男の間に割って入り、彼の胸倉を掴んで、厳しく誰何する。


「お……お前、何モンだ?、も、もしかして……」


 嫌な予感が頭を掠める。


「――お前、フェーンちゃんのオトコかぁッ?」

「ブフゥッ――!」


 隣でバルを一呷りしていたヒースが、思わず噎せる。だが、ジザスは至って本気(マジ)だ。その目を血走らせて、胸倉を掴んだ男の事を睨みつける。

 すると男は、眉を顰めて、フェーンを指さした。


「俺が? コイツの? オトコぉ?」


 そして、彼は目をパチクリさせると、大声で笑い出した。


「ぶ、ブハハハハハハッ! じょ、冗談は止してくれよ! な、何で俺がコイツなんかと?」

()()()()()()()、だと? ……おい、兄ちゃん、ちょっと外でお話しよーか?」


 男の言葉に、目の色を変えるジザス。ドスの効いた低い声で威圧しながら、男の襟首を掴む手に力を込める。

 だが、男に怯んだ様子は無い。相変わらずヘラヘラした顔で、ジザスの手を振り払った。


「いや、外、ここですけど……?」

「おい、テメエ!」

「おいおい、せっかく美味い酒を飲んでるんだ。揉め事起こすんじゃねぇよ」


 呆れ顔で、ガチギレするジザスを窘めるヒース。

 ジザスは渋々といった様子で椅子に座り直すが、相変わらず殺意に満ちた目で、茶髪の男を睨みつけている。

 男は、訳が分からないという顔をしていたが、ふと、合点がいったという顔になって、手を叩いた。


「あ~……なるほど。そういう事ねぇ」


 そして、にこやかに笑って、ジザスの肩を叩く。


「まあ……茨の道かもしれないけどさ、頑張ってヨ! 取り敢えず、俺にはそういうシュミは無いから、安心してね〜」

「……な、何だよ、イキナリ……?」


 男の態度に訝しむジザス。


「というかよ……お前は誰なんだ? この店の下働きか何かか?」


 ヒースが、男を鋭く睨めつけながら尋ねた。肝っ玉の小さい者なら、恐怖で小便をちびりかねない程の鋭い視線だったが、男は、毛程も狼狽える様子を見せなかった。


「下働き……ではないなぁ。何せ働いてないから」


 そんな事を臆面もなく言ってのける。


「俺の名は、ジャスミン。色ご……まあ、いわゆるひとつの遊び人てヤツだ」


 そう言って胸を張る。


「……自慢げに言う意味が分からねえ……。働けや、クソニート!」


 ジザスが、憎々しげに言う。


「手厳しいねぇ……小さいダンナ」


 ジャスミンは相変わらず飄々と、ジザスの敵意剥き出しの言葉を受け流した。


「……で、その遊び人のあんちゃんが、何でこの居酒屋の蔵からバルの樽を持ち出してきたんだい?」

「それな!」


 ヒースの問いに、ジザスが大きく頷く。


「あ、ソレ聞いちゃいます?」


 ジャスミンは、ヘラヘラと笑った。


「いやね、サンクトル(ココ)に流れてきて、楽しくやってたら、突然アンタらが街を占領しちゃいましてね。ほら、俺ってこんなハンサムフェイスでしょ? 女の子ならまだしも、()()()()()()()をお持ちの()()()()()に目を付けられたらかなわねえ……と思って、シレネにお願いして、匿ってもらってたんですよ」


 ジャスミンは、そこまで言うと、大きくため息を吐いた。


「……でも、最近、ちょっとやらかしてしまいまして……シレネ(店主)の目が、日に日に厳しくなってきましてねぇ……。こりゃ、早晩追い出されるナァ……と焦ってた矢先に、名高いダンナ達がご来店された訳です。ああ、こりゃあチャンスだ! ……って思って、樽をお持ちするのを口実に、お目もじしようと考えた次第」


 そう言うと、ジャスミンは揉み手をしながら、上目遣いにヒースを見る。

 ヒースは、ピッチャーのバルを一息で飲み干してから、訝しげな目でジャスミンの顔を見た。


「……で、あんちゃんは、俺に何を期待してるんだい?」

「ま、早い話が、俺は、ダンナ達に就職の斡旋をお願いしたいんですよ……。」

「就職の……斡旋?」


 首を傾げるふたりを前に、ジャスミンはニンマリと笑って、言葉を継いだ。


「ダンナ……アンタに、俺の、傭兵団入団への口利きをお願いできませんかね?」

やっと、ジャスミンとヒースを遭遇させる事ができました……。

長かった……。

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