表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/175

護衛と暗殺者

 「……」


 鞭を放った者は、ヒースの問いに対して、未だ沈黙を続けている。

 ヒースは、チッと舌打ちを打つと、大きな声で、闇の向こうの狼藉者に言う。


「まあ……黙ってても大体察しはつく。大方、ダリア傭兵団が放った暗殺者だろう。……まったく、オレのクライアント様も舐められたモンだな! こんな半人前の出来損ないを、暗殺者として寄越されるとはな!」

「……黙れ」


 憤怒に満ちた呟きが聞こえると同時に、ヒースの手中にある長鞭に力がかかる。暗殺者が、自分の元に鞭を引き戻そうとするが、ヒースの超人的な握力で握られた黒い鞭は、ビクリとも動かない。


「……ぐ……っ!」

「――おいおい、お前の力はそんなモンか? ドナン川のクチボソバスでも、もうちょっと引きが強いぜ? 出来損ないの暗殺者さんよ」

「黙れ! 誰が出来損ないだ!」

「――()()がだよ、半人前さん」


 ヒースは、ニヤリと嘲笑(わら)って、闇の奥を指さす。


「――ッ!」


 黒いビロードのカーテンのように分厚い闇の中にも関わらず、ヒースの指先は暗殺者に向かって、真っ直ぐに突きつけられていた。


「暗殺者ならば、如何なる事があっても、任務遂行前の相手に己の存在を知られてはいけない――。お前は、そんな暗殺者のいろはの“い”も出来てねえ。相手の挑発にノせられて声を上げるなんざ、素人同然の愚行だぜ」

「う……」

「それにな、さっきも言ったが、そんなに殺気をダダ漏らしで回りに発散していたら、あの()()()()()()はともかく、少しでも修羅場をくぐってきたヤツなら、すぐにお前の存在に気が付くさ」

「……うるさい!」


 痛い指摘をされて、逆上した様子の暗殺者。

 ヒースは、やれやれと肩を竦める。


「忠告してやってる(そば)からソレかい……。いいか? いい事を教えてやる」


 ヒースは、闇の奥の暗殺者に、蕩々と言って聞かせる。


()っていうのは、お前さんが考えているより遙かに情報量を持っているんだ。聴くヤツが聴けば、いろいろな情報を得る事が出来る……。例えば」

「…………」

「さっきの声色から考えて、お前はまだ若い……女だ。あと、声のイントネーションに微かに訛りのクセが残っている……恐らく、クレオーメ領の――エクセレス地方辺りの生まれだろう……。違うか?」

「――!」

「――ほらな、殺気が乱れた。動揺しただろ? ソレで、オレには解るんだよ。オレの推論が“当たり”だってな」


 ヒースは、野卑な笑みを、その無骨な顔面に浮かべる。


「つーか、お前、暗殺者としての訓練は殆ど受けてねえだろ。暗殺者にしては、色々グダグダ過ぎる……。タダの娘ッ子が、それ程までの殺意を持ってこんな所まで潜り込んでくるって事は――」

「――それ以上喋るなァアアッ!」


 暗殺者が絶叫したと同時に、ヒースが握っている長鞭の表面から紅蓮の炎が吹き出した!


「うオォッ?」


 ヒースは、完全に意表を衝かれた。一瞬、鞭を掴む掌が緩む。

 次の瞬間、スルスルっと、蛇が逃げ去る様に、鞭が彼の掌の(くびき)から解き放たれる。


「あ、ヤべっ!」


 ヒースは手を伸ばして、もう一度鞭を掴もうとしたが、もう遅かった。


「――逃げたか……」


 現場に残っているのは、鞭が放出した、炎の残滓のみ。

 ヒースは、鞭を掴んでいた右掌を見る。先程、鞭から吹き出した火炎によって、真っ赤に焼け爛れている。


「……やられたぜ。こんな隠し玉(火炎術)を温存していたとはな」


 ヒースは、火傷でひりつく掌をブンブンと振りながら、大笑する。


「あの娘、暗殺者としては落第もいいところだが、戦士としてはなかなかいいモノを持っていそうじゃねえか! こりゃ、たとえ(しろがね)の死神が来なくとも、意外と退屈せんかもしれねえな……ガハハハハ!」


 夜の闇が深まるサンクトルの空に、野太い哄笑が、高く高く響き渡っていった――。

これで、一段落です。やっと種を蒔き終えた感じですね(長っ!)。

チュプリ(果無の樹海)、ダリア山、サンクトルでバラバラに進んでいたキャラ達が、徐々に接点を持ち、ストーリーがひとつに収束していきます。

どうぞ、これからもお楽しみ下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ