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自称傭兵団団長と護衛

 「あ――――ッ! イライラするぅぅん!」


 ここは、()サンクトル商人ギルド本部――今は、ダリア傭兵団副団長……もとい、()()チャー傭兵団団長チャーの私邸。

 夜の静寂を破って、品の無い胴間声が、辺りに轟く。


「まだ……まだゲソスのヤツは帰ってこないの?」


 チャーは、私邸の中でも特に豪奢な、元々はギルド長の執務室だった部屋に、サンクトルの最高級家具店から強奪……()()してきたキングサイズのベッドを持ち込んで、自身の寝室へと模様替えしていた。

 そのベッドの上でゴロゴロとのたうち回りながら、チャーは怒鳴り散らしていた。

 最高級のベッドは、チャーの体重に耐えかねて、先程から嫌な軋みを上げている……。


「遅い遅い遅い遅いっ! ゲソスのヤツ、いつまでダリア山で何アブラ売ってるのよ!」

「……そんなに騒いでもしゃーないと思うんだがなぁ」


 壁に(もた)れかかって、退屈そうに顎の無精髭を抜きながら、ヒースは呆れたように言った。


「そんなに待ち望んでても、戻ってくるのは、哀れなゲソスの首から上だけに決まってるんだから……あ、首だけじゃねえな。ダリア傭兵団本隊が、千人ばっかしオマケで付いてくるかもな……アンタを殺す気マンマンで」

「そんな訳無いでしょ!」


 チャーは、ヒースの言葉を真っ向から否定した。


「何てったって、アタシはクレオーメ大公の庶子よ! アタシにもし何かあったら、即座にクレオーメ公国からの支援は途絶えるの! だから、アイツ(シュダ)は、アタシには一切手を出せないのよ! 出せない……はず! ……出せない……と……いいな……」


「段々弱気になってんじゃねえよ」


 ヒースは苦笑した。


「まあ、イザとなったら、傭兵団だろうが、バルサ王国軍だろうが、オレが纏めてブッ斃してやるからよ」

「……随分と頼もしいけど……アナタは、あの女の事を見てないから、そんな大口が叩けるのよ……」

「……女……(しろがね)の死神の事か?」


 その瞬間、ヒースはニィッと嘲笑(わら)った。

 同時に、凄まじい殺気が放たれ、ソレにまともにアテられたチャーは、腰を抜かした。


「ひ――ッ!」

「オレとしては、寧ろソイツと戦いてぇんだよ。伝説の死神様ってヤツの強さが如何ほどのものか……。あぁ――存分に殺りあいてぇッ!」


 興奮したヒースが吠えて、拳を傍らに飾られた花瓶に叩きつける。花瓶は文字通り"粉砕"された。


「キャアアアアアアアアアッ! な、何やってんのよォッ! そのシーガラ焼きの花瓶は、時価2000万エィンは下らない品なのよぉッ!」


 甲高いチャーの悲鳴が部屋に響く。


「あ……、悪ぃな。つい興奮しちまった……。まあ、形とあるものはいつかは壊れる、って事だ。ショギョウヒジョー……だっけ?」

「何悟った顔して有耶無耶にしようとしてんのよ! どうしてくれんのよ! 弁償して済むこ――」

「五月蠅えなぁ! 団長騙ろうってヤツが、そんな事でグダグダ、ケツの穴の小せえ事を言ってるんじゃねえよ! 第一、こんなトコロにこんな高級な花瓶を飾っとく方が悪いだろうがッ!」

「ひ――ッ!」


 ヒースの逆ギレ……もとい、大喝に、震え上がるチャー。

 ヒースは、チャーの怯える姿を見て、やれやれと呆れ顔を浮かべる。


「情けねえなあ……それでも傭兵団の現副団長で、反乱起こそうって大それた事を考える、野望家様かよ?」

「は――反乱じゃないわよっ! コレは……平和的分派よっ!」

「そんなモン、受け取る向こうさん側次第でどうとでも解釈が変わるだろうが。……まあ、いいや」


 ヒースは、大きなあくびを一つすると、ドアを開けた。


「オレはもう寝るわ。オマエもちゃんと戸締まりして、早めに寝ろよ。――あと」


 ヒースは、顔を顰めて続けた。


「寝る前に、ベッドシーツと寝巻も替えとけよ。濡れたまんまじゃ寝付きが悪いぜ……ククク」


 ◆ ◆ ◆ ◆


 チャーの寝室を辞し、回廊をドスドス地響きを立てながら闊歩するヒース。

 ――と、ふと彼は立ち止まった。


「おい」


 彼は正面を向いたまま、脇に立つ円柱の奥の闇に向かって呼びかけた。


「そこに潜んでいるヤツ、観念して出てきな」


 ――返事は返ってこない。


「……オレはあんまり気の長い方じゃねえ。早く出てこい」

「…………」

「オレは眠いんだよ……」


 ヒースの言葉が、剣呑さを増す。


「往生際が悪いぞ。上手く隠れてるつもりなんだろうが、そんなにハッキリとした敵意に満ちた殺気を垂れ流してたら、隠れてる意味が――」


 と、ヒースの言葉を遮る様に、ビュンッという風切り音がした。

 瞬間、ヒースの丸太の如く太い腕が、その形に似合わない素早さで動く。


 バチィッ!


 乾いた音が、だだっ広いし回廊に反響した。

 ヒースの手には、黒光りする長鞭がしっかりと握られていた。


「これが……返事か?」


 そう言うと、ヒースは口の端を歪めて、ニイッと嘲笑(わら)った。

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