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白銀と蒼白

 復讐の炎を、その真紅の瞳に宿したアザレアが出ていった後、ひとり、部屋に残ったシュダ。

 眼を閉じて佇んでいた彼は、眼を開けると、虚空に向かって声を発した。


「……ところで、何時までそこで見ているつもりだい? ゼラ……」

「――気付いていたのか……」


 虚空の向こうから、闇よりも昏い影が現れる。

 部屋の燭台の僅かな光に照らされ、銀糸のような長髪がキラキラと光った。

 

「流石だな。勘がいい」

「伝説の“(しろがね)の死神”にお褒め頂けるとは、光栄だよ」


 彼の前には、長身の女の姿があった。見る者が息を吐くのを忘れて見惚れてしまう程、美しい――(しろがね)の死神の姿が。

 だが、シュダは、伝説の死神を前にしても物怖じもせず、皮肉げに口の端を歪ませる。 


「意外だね。伝説の存在ともあろう者が、男女の秘密の会話を盗み聞きとは……」

「そのような艶っぽい話ではなかったように聞こえたがな」


 死神(ゼラ)は、ツカツカとシュダの前に立つと、その首を右手で鷲掴みする。


「おいおい……暴力反対だよ」

「……貴様は……何を考えている?」


 彼女の美しい顔は、何の感情も感じられない“無表情”のままだったが、その口調には、ごくごく僅かだが、明らかに怒りの感情が混ざり込んでいた。


「――珍しいね。君が()()()()()だなんて」

「怒ってなどいない。貴様の行動が理解できずに苛立っているだけだ」

「『苛立つ』だって――?」


 シュダの顔が嘲笑で歪む。


「驚きだね。数千年の時を経てきた君に、()()そんなプリミティブな感情が残っていたとはね」

「…………」


 シュダの、挑発紛いの言葉にも、ゼラは一瞬頬を引き攣らせた以外、表情を変えなかった。

 彼女は、シュダの首を掴んだ手を乱暴に離し、昏い海の底のような暗灰色の瞳で彼を()めつけたまま、静かにシュダを詰問する。


「……何故、あの娘にチャーの暗殺を唆した? わざわざ、あんな()()()()()()まで吐いて」

「…………」

「あの娘は、まだ己の手を血で汚した事が無いのだろう? そんな娘より、私の方が、素早く、確実にチャーを殺せる……」

「ああ、それは分かっているさ」


 シュダは、あっさりと言い、首を横に振りながら、言葉を継いだ。


「確かに君なら、チャーの首を取るなど、実に造作も無い事だろうな。だがね……君は必要以上に()()()()()()()

「…………フフ――確かに、な」


 ゼラは自嘲笑(わら)った。


「『喰わない』という保証は出来ないな……」

「――正直な所、チャー君に保有戦力をごっそり持って行かれたせいで、ここダリア山の戦力は、文字通り半減しているのだよ。だから――」


 シュダは、ニヤリと笑ってから、言葉を続けた。


「今回の独立()()の罪と……ついでにアザレアの姉上殺害の罪を、全部チャー君ひとりに被ってもらい、他の傭兵達は、出来るだけ無傷のまま当方に復帰させる……というのが、私の描く理想の結末だよ」

「戦力など不要だろう。私が、減った兵の分まで働けば良いだけの話だ」


 ゼラは、不満げな声を上げる。シュダは、彼女の言葉に軽く頷く。


「――確かに、君ひとりで、下手な兵千人よりも頼りになる事は、重々承知しているよ。しかし、それでは、我が傭兵団のスポンサー様が納得できないらしい。あの方々は『戦いは数』だと、頑迷に信じ続けている人種だからね」

「……クレオーメ公国か……」


 ゼラは、呟き、ふと疑問が湧いた。


「ならば何故、クレオーメ公国は、結団当初からこれまで、一貫して傭兵団の援助を続けていたのだ? ここまで規模が大きくなったのは、つい最近の事だろう?」

「――チャー君さ」

「チャー? 何故……」


 その名前が? と続けようとするゼラの唇を指で押さえて、シュダは微笑んだ。


「これは、現在進行形の秘匿事項なんだがね……。実は、チャー君は、クレオーメ大公陛下の隠し子なんだ」

「――――!」


 無表情のゼラの顔に、微かに驚きの感情が過るのを見て、シュダはニヤリとする。


「コレで、合点がいっただろう? あんな無能な人豚が、今までずっと、副団長としてふんぞり返っていた理由――」


 シュダは、くくくく、と愉快そうに嗤う。


「チャー君がいるだけで、クレオーメ公国は、我々に莫大な支援をしてくれる。――それは、裏を返せば、チャー君が居なくなってしまうと、支援を得られなくなってしまうという事。――それが……それ()()が、今日までチャー君を()()できなかった理由だよ」

「――という事は、今後は……」

「ああ。これからは、ある程度の戦力を備えさえしていれば、クレオーメ公国は、チャー君の存在の有無など関係無く、我々に喜んで資金を貢いでくれることだろう。ゼラ……君が、ワイマーレ騎士団を鏖殺して、その人智を遥かに超える力というものが、彼らに広く認知されたお陰でね」


 シュダは、そう言うと、満面の笑みを、その白面に浮かべた。


「くくくく……。ずっと目の上の瘤だったチャー君が、まさかダリア傭兵団を()()去ってくれるとはね……! 彼が独立するとほざいていると、あの使者から聞かされた時は、内心で腸が煮えくりかえるどころでは無かったが……今にして思えば、チャー君は、実に私の事を思いやった決断を下してくれたよ! 自ら屠殺場へ歩みを進めてくれるとは、まったく健気なブタじゃないか? あはははははははは!」


 シュダの嗤いは止まらない。遂には、腹を抱えて、床を笑い転げる。


「我ながら、全てが上手く回りすぎて怖いくらいだよ! はははははははは!」

銀の死神ゼラが久しぶりの登場です。

イメージしている彼女の容姿を表現しようとしても、語彙力が足りなくて、結局「美しい顔」としか書けないのが哀しい…。

取り敢えず、ゼラは「言葉に表せない程のメッッッッッチャ美人」、て事でイメージ補完をお願い致します(笑)。

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