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蒼白と真紅

本文で触れる機会が無いので、この世界での単位について説明します。


長さの単位は

セイム、エイム、ケイムで表されます。

1セイムは1cm、1エイムは1m、1ケイムは1kmと同じ長さになります。


重さの単位は

ジイグ、ケイグ、ティン

1ジイグは1g、1ケイグは1kg、1ティンは1tと同じ重さになります。


貨幣は、エーン

1エーンは1円と同じ価値です。


計算が面倒くさいので、現実の単位と同じにしました(笑)。

 ダリア傭兵団の本拠――、

 薄暗く長い回廊を、シュダは白装束の長い裾を靡かせ、ゆるゆる歩く。

 そして、回廊の突き当たりにある、鉄製の重い扉の前で、彼は立ち止まった。


『ハッ! ヤーッ!』


 という、何やら勇ましいかけ声が漏れ聞こえてくる。

 シュダは、重い扉を押し開け、部屋の中に入った。

 そこは、石壁で四方を囲まれた、暗い部屋だった。

 ――その部屋の中央で、紅く光る“蛇”が、空中をうねり飛んでいた。“蛇”は、地面に鋭い音を立てて跳ねたかと思えば、空中で鮮やかな弧の軌道を描いて、空中を泳いだりと、暗闇の中を自在に躍動していた。

 しかし、よく目を凝らしてみれば、闇の中を縦横無尽に跳ね回る紅く光る蛇は、炎に包まれた、数エイムに及ぶ長鞭だという事が分かる。

 その鞭の炎に照らし出された長鞭の遣い手は、まだうら若い女性だった。


「どうだい? 炎鞭(フレイムウィップ)の腕前は、上がったかい?」


 部屋に入った瞬間、シュダは顔を微かに歪めるが、すぐに平常な表情を取り戻し、室内の人物に向かって声をかける。


「――! あ! こ、これはシュダ様!」


 室内の女性は、戸口に立つシュダに気付くと、慌てた様子で、手にした炎鞭(フレイムウィップ)の炎を消し、丸めたそれを腰のホルダーに納めた。

 そして、小走りで走り寄ると、シュダの前に膝をついた。


「これは、ご来訪に気付きませず、大変失礼を致しました、シュダ様!」

「いやいや。私も、ノックもしないで、勝手に入り込んだんだ。失礼はお互い様だよ――アザレア」


 シュダは、穏やかな笑みを湛えて、室内の女――アザレアに言う。

 彼女は、まだ若かった。年の頃なら18.9といった所か。その髪は、鮮やかに燃える炎の様な赤髪で、肩の辺りで切り揃えており、三つ編みにした一房を耳前に垂らしている。

 整った顔の中で、ひときわ魅力的に輝く瞳の色も、クリムゾンルビーを思わせる真紅だ。

 そして、鍛え上げられたしなやかな長身が、彼女の持つ佇まいを、更に神秘的なものに昇華している。

 ――まるで、古の神話で語り継がれる、炎と竈を司る女神フェイムを彷彿とさせる、美しい容姿の持ち主だった。


「……ところで、シュダ様。今日は、何故この様な所まで御出(おいで)になったのですか?」


 アザレアは、首を傾げて、シュダに訊いた。


「ああ……。実は」


 シュダは、どことなく言いづらそうな素振りで、言葉を続けた。


「君にとっての朗報であり、我らダリア傭兵団にとっての凶報、そして、君に対して謝罪しなければならない話を持ってきたのだ」

「私にとっての朗報で、傭兵団にとっての凶報……?」


 アザレアは困惑の表情を浮かべる。


「申し訳ございません。……私にはどういった事なのか、さっぱり――」

「ははは。いや、すまなかった。君を混乱させるつもりは無かったのだがね……」


 苦笑するシュダ――その、白く塗り重ねられた道化師の様な顔が、真剣さを増して、グッと引き締まる。


「これから私が話す内容を、どうか落ち着いて聞いてほしい。いいね、アザレア……」

「…………は、はい」


 シュダの真剣な様子に、アザレアも緊張する。

 シュダは、決意するように深く息を吸うと、()()をアザレアに伝えた。


「……君が長年探し続けていた、君の姉上を殺めた人物が、判明した」

「――――え!」


 アザレアの紅玉の様な真紅の瞳が、驚きで大きく見開かれる。


「――そして、ダリア傭兵団団長として、私が君に心からの謝罪をしなければならない理由が……」


 シュダは、沈痛な表情を浮かべて、言葉を継ぐ。


「我々が、かなり以前から、君の姉上殺しの犯人の情報を把握しており――その上で、君に対して、その情報を秘匿し続けていた、という事だ」

「――どういう事でしょうか……シュダ様?」


 アザレアは、低い声でシュダに問うた。その紅い瞳には、チラチラと怒りの炎が燃えている。

 シュダは、憤怒に震える彼女を前に、冷静に言葉を紡ぐ。


「それは、『ダリア傭兵団にとっての凶報』という内容に関わるんだ。即ち――」


 彼は、一旦言葉を切ると、覚悟を決めるように深く息を吸い、その言葉を吐いた。


「君の姉上を殺めたのが、他でもない、傭兵団副団長のチャー君だったからなんだ」

「――――!」


 アザレアの瞳が、再び大きく見開かれ、そして、きつく閉じられた。


「シュダ様……、申し訳ございません」


 アザレアは、低い声で呟くように言った。

 彼女の拳は、きつくきつく握り込まれ、ブルブルと震えていた。

 そして、彼女は顔を上げる。その眼には、涙と――復讐に滾る憎悪の炎で満ち満ちていた。


「シュダ様! どうか、どうか私に、チャー様……いや! 憎っくきチャーを討つお赦しを下さいませ! ……いえ、お赦しが無くとも、私はあの男を討ち滅ぼします! ……止めないで下さい、シュダ様! もし止めるというなら、私は貴方も――!」

「ほらね。そうなると解っていたから、君には伝えられなかったのだよ……()()()()

「――()()()()?」

「――ああ」


 シュダの言葉に含まれる、意味深な響きに気が付いたアザレアは、当惑の表情を浮かべる。

 そんなアザレアの顔を見て、シュダはフッと相好を崩し、左手で彼女の頬を撫でて、静かに言葉を続けた。


「君がいくらチャー君に対する復讐を懇願しても、傭兵団に於ける副団長という彼の立場上、私はそれを赦す事はできなかったのだが……それも、昨日までの話となった」

「……昨日までの?」

「――ああ」

「チャー君は、本日を以て、ダリア傭兵団の副団長職を退いた。……つまり」


 シュダは、ニヤリと微笑(わら)った。


「もう、彼は、ダリア傭兵団とは無関係の人間になったんだ。――チャーが、()()()()()に惨たらしく殺されようとも、我々には一切の関係が無いという事だ」

「――! では……!」

「ああ」


 シュダは、凄惨な笑みを浮かべた。


「君に()()を与えよう。()()()()()()()()()、気が済んだら戻ってきてくれ。――今なら……そうだな。()()()()()()()がオススメだよ」

「…………畏まりました」


 アザレアは、ゆっくりと頷いた。その真紅の瞳を、狂気にも似た執念でギラつかせて。


「お言葉に甘えて、休暇を取らせて頂きます。サンクトルに、()()()()()()()()()()()()()がいらっしゃいますから――」

待望の女性キャラ、アザレアが、満を持しての登場です!

……いきなり闇に染まりましたけど……(汗)。

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