表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜  作者: 朽縄咲良
第十三章 屍鬼(したい)置き場でロマンスを
153/175

天下無敵の色事師と冒瀆の屍術士

 「ジャス……ッ!」


 振り返ったアザレアが、驚きで目を見開いた。その瞳から、大粒の涙がポロポロと零れ落ちる。


「アザリー、大丈夫か?」


 ジャスミンは、素早く彼女の元に駈け寄ると、手にした無ジンノヤイバの柄尻を叩く。桃色の光が剣身となり、その光の刃で、アザレアの脚を握りしめて離さない屍鬼の腕に斬りつけた。

 不思議な事に、あれだけ強い力でアザレアの脚を掴んでいた屍鬼の腕が、無ジンノヤイバの桃色の刃に触れると、苦しそうに痙攣してボロボロと崩れ出し、やがて、一片の灰と化した。

 アザレアはもちろん、当のジャスミン自身も、その現象に目を丸くする。


「……どうしたの、コレ?」

「……私に聞かないでよ」


 ――何はともあれ、アザレアは自由の身となった。


「――ケガはないか、アザリー?」


 労るように尋ねるジャスミンに、小さく頷いて答えるアザレア。それを見たジャスミンはニッコリ笑って、彼女の肩をポンポンと叩いた。


「――よし、じゃあ、ちょっと休んでな。あとは、俺が片をつけてやるからさ」

「だ――ダメよ、ジャス……! 私も戦う……! 姉様の仇を討つ――」

「ああ、そうしろ。――でも、()はダメだ」


 ジャスミンは、アザレアの頬に流れる涙を、指でそっと拭いながら、優しく言った。


「そんな乱れた精神状態じゃ、仇を討つどころか、炎鞭(フレイムウィップ)も出せないだろ? 俺が時間を稼ぐから、落ち着いたら――助けてくれよな?」

「……分かった……解ったわ、ジャス……」

「――ありがとう」


 と、アザレアにニコリと微笑みかけてから、彼は振り返り、不気味に佇むふたり……ひとりと()()()を睨みつけ――首を傾げた。


「……あれ? アンタ、本当にシュダ団長か? その頭おかしい白装束で、団長だとばっかり思ってたけど、よく見たら顔が全然違うなあ」


 確かに、昼間に謁見の間で見えた時とは、面相から違う。ジャスミンが戸惑うのも無理はない。

 フジェイルは、引き攣れた唇を歪めて冷笑した。


「……ふん。君も、アザレアの変装は見ているだろう? あれを仕込んだのは、他ならぬ私だ。――あの忌々しい(ロゼリア)が、私の顔に、この酷い火傷を刻んでくれたのでね。火傷を隠して、人目に晒しても恥ずかしくない面相にする為に覚えたメイクアップ技術は、いつの間にか達人の域に達していたよ」

「ふーん……でも、そうは言っても、本当は自信が持てなかったんだろ? 自分の技術にさ」

「……何だって?」


 フジェイルの眉がピクリと跳ねる。ジャスミンは、彼の僅かな表情の変化に気付いてか気付かずか、口の端に皮肉気な薄笑みを浮かべながら、言葉を継ぐ。


「ただ、メイクアップして火傷の傷痕を隠そうとしても、不自然なところが残っているんじゃないのか……そう考えたから、アンタはベースの化粧の上から、更に過剰な白塗りをしたんだ。――要するに、不自然を、更なる不自然で覆い隠したって訳」

「……それが、どうした?」


 話の着地点が見えない事に、若干の苛つきを覚えながら、フジェイルは上辺では平静を装い、問い返した。


「不自然な化粧を隠す為に、より目立つ不自然な白塗りを施す――だから何だという――」

「要するに、『小心者だね、アンタ』――っていう事さ」

「小心者……だって? ――私が?」

「そ」


 ジャスミンは、ニッコリと微笑んで頷いた。


「それだけ完璧な偽装を施しながら、更に大袈裟な偽装を凝らす。おまけに、アザリーの記憶を弄ってまで、自分の正体を隠そうとする。――でも、そこまでしてでも、アザリーにバレたくなかったんだろ? アンタがシュダでは無く、フジェイルだという事実を」

「……」

「安心したよ、シュダ団長……いや、フジェイル」

「安心した? ……何を、だ?」


 意外な言葉に、当惑の表情を浮かべるフジェイルを、ジャスミンは真っ直ぐ指さして、ニヒルな笑みを浮かべる。


「……初めて会った時は、顔から言葉から態度から、アンタは全てに仮面を被ってて、人間味の欠片も感じられなくって、正直薄気味悪かったんだけどさ。――今は、全然怖くないんだよ。むしろ、親しみすら感じる程にさ」

「……」

「フジェイルさんよ。アンタは()()()()()だ。惚れた女に、自分の本性を知られたくないと、必死に化けの皮を被って演技し続ける、感情豊かで恋に惑う……タダのひとりの男だ。――だったら」


 ジャスミンはそう言うと、胸を張った。


「――俺がアンタに負けるはずは無いんだよ。人の心の機微を読む事にかけては右に並ぶ者のいない、この俺――『天下無敵の色事師』ならば、ね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ