強力(ごうりき)と金庫
すさまじい衝突音と豪風が部屋を満たし、不意をつかれた傭兵達は一様によろめき、ある者は床に転がった。
風に床の埃が巻き上げられ、何も見えなくなり――
「――あ、ああ……」
その埃が収まり、視界がはっきりした時、傭兵達の口から絶望の溜息が洩れた。
「……やっぱり、無理か……」
そこには凄まじい力の打撃を受けても、傷一つ、凹みの一つすら無く存在し続けている、巨大な黒い鉄扉の姿があった。
「……んもう! ダメじゃないのよ! あんなでかい口を叩い……」
「――黙ってろ」
「――ゴメンナサイ……」
甲高い声で喚き散らすチャーを一睨みで黙らせて、ヒースは再び振りかぶる。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉお!」
再び衝撃音。
……しかし、結果は変わらない。
また振りかぶり、そして振り下ろす。
振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。
振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。
振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。
振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。
…………
……
「……やはり、無理か?」
「化け物だな、全く」「――どっちが?」「そりゃ、あの衝撃にびくともしないあの金庫だが」
「これだけの衝撃を叩き込み続けてるアイツも、十二分にバケモノの範疇だろ?」
「だな」「こりゃ、お手上げかねぇ」
「つーか、デカイ口叩いておいて、ザマぁ無えな、オイ」
衝撃波を避けて、頭を抱えて屈み込んでいる傭兵達の間で、失望に満ちた囁きが交わされる。
かれこれ半時間ほども棍棒で殴打され続けている金庫には、依然として、全く異常が見られない。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
ぐわあああああああああぁぁあぁあぁん!
数えて87回目の打撃にも、扉は耐えた。
再び棍棒を振り上げるヒース。無数の古傷が刻まれた彼の身体は、全身水を浴びたように汗まみれだ。――だが、その顔には、一種恍惚の表情が浮かんでいる。
しかし、失望の表情をありありと浮かべた傭兵の一部は、立ち上がって出口に向かって歩き出す。
「あー、もうダメだろ。別あたるぞ」
「……そうだな、小金くらいだったらギルド長の部屋にもあるだろうしな」
「そっちの方が確実だわな!」
「うぅおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」
ぐおおおあああああああああああぁぁぁぁん!
びきっ
「…………………あれ?」
傭兵の一人が立ち止まる。耳に届いた微かな音の正体を、信じられない思いで推測しながら……。
「今の……音って……?」
「――どうやら」
ざわめく傭兵達の中、懐から新しいシケモクを取り出して口に咥えたジザスが呟く。
「バケモノ対決に決着が付いたな」
口の端を歪めて――微笑う。
「全く……なんてヤツだよ、あの野郎。錠前破りを失業させる気かよ……」
「――――あと、2回、って所かな?」
荒い息を吐きながら、微笑うヒース。
息を整える間もなく、再び棍棒を振り上げ
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
叩き付ける。
ぐおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉん!
ビキキキィ!
「おおおおおおおおおおおおおおぉぉ!」
どよめく傭兵達。今なら、彼らの目にもはっきり見て分かる。あの、難攻不落を誇った、巨大で丸い鋼鉄の扉が、無様にその形を歪めている!
「あ――あいつ! す、すげえっ!」
「やりやがったぁ!」
「もう少しだ、行けぇぇ!」
「……ば、ば、馬鹿な!」
歓喜の声こだまする金庫室で、這い蹲りながら一人呆然とするギルド長。
「『完全絶対無敵安全金庫室 あんしんくん』だぞ! 物理的・論理的に難攻不落の史上最強の金庫だぞ! そ、それを、力づくで……ば、ば、馬鹿なあああああああぁぁ!」
「力づくでも何でもいいわよぉ! 早く、早くぅ! んもう、アタシ惚れちゃいそうぅ♪」
「――――いやいやいや、それだけは勘弁してくれぇぇぇぇっ!」
てきめんにうろたえたヒースの叫びと共に、今までで最大の衝撃が、弱った扉に叩きつけられた。
――そして
扉の錠は引きちぎれ、蝶番も破砕された扉はゆっくりと転がり倒れる。
耳をつんざく轟音が辺りを席巻し――そして、その場にいた全ての人間の眼に、暴力的なまでに眩しい黄金の光が飛び込んできたのだった。
どうでもいい事ですが、「ごうりき」と入力しても、「強力」の変換候補が出てきませんでした…スマホだからかな?
キン肉マンビッグボディさん…(´;ω;`)