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クナイと煙幕

 ――所変わって、ここは謁見の間。


「うおっとぉっ!」


 ジャスミンは、間の抜けた叫び声を上げながら、無ジンノヤイバを前に突きだし、柄尻を押す。忽ち展開したピンク色の傘が、暗闇の向こうから飛来した無数のクナイを防いだ。

 すかさず、地面を蹴り、横っ飛びで壁面の調度品の陰に隠れる。


「……ちょこまかと逃げ回りおって――! 貴様、それでも男か、臆病者!」


 素早く新たなクナイを構えた仮面の者は、舌打ちをすると、音も無く床を蹴った。


「シャアッ!」


 奇声を上げ、ジャスミンに肉薄しつつ、クナイを放つ。


「おっとぉ!」


 先程と同じく、桃色の光の傘を展開して、飛来するクナイを防ぐジャスミン。

 ――と、


「油断大敵だ!」


 クナイに紛れて突貫してきた仮面の男が、黒い直刀を光の傘に向けて突き立てる。

 死角からの不意打ちに、光の傘は耐え切れず、乾いた音を立てて破れ割れた。


「――クッ! 痛ッ!」


 顔を歪めるジャスミン。無ジンノヤイバの傘を貫いた直刀の切っ先が、彼の右腕を掠ったのだ。

 ジャスミンは、苦し紛れに蹴りを放つが、仮面の男は身軽に跳びすさって、その攻撃を軽々と躱す。

 そして、懐に手を入れると、握り拳ほどの丸い玉を取り出し、ジャスミンに向かって投げつけた。


「なんだ……そりゃ?」


 山鳴りの軌道を描いて、自分の方へ近付いてくる丸い玉をどうするか――ジャスミンは一瞬躊躇した。

 次の瞬間、丸い玉は高い音を立てて破裂し、中から夥しい煙を吐き出す。


(――煙幕か!)


 ジャスミンの脳裏に、リオルスの宿屋での記憶が蘇る。咄嗟に口を押さえ、煙を吸い込む事は防げたが、たちまち周囲を白い煙に覆われ、ジャスミンの視界が奪われる。


「や――やべっ!」


 煙に紛れての奇襲の可能性に、ジャスミンは慌てて、無ジンノヤイバを楯に変化させ、眼前に構え、攻撃に備えようとする。

 が、


「――こっちだ」

「! ―――クッ!」


 耳元で囁き声が聞こえた次の瞬間、背中に焼ける様な鋭い痛みを感じる。

 ジャスミンは、くぐもった悲鳴を上げながら、前のめりに倒れ、そのままゴロゴロと転がり、何とか煙の外へと脱出した。

 背中を触ると、シャツが切り裂かれ、ぬるりとした液体の感触が――。


「もう……コソコソと! チクチクチクチク! 正々堂々と戦えコノヤローッ!」


 ジャスミンは、背中を押さえながら苛立たしげに叫び、晴れた煙の向こうから姿を見せた黒装束を睨みつけた。

 黒装束の仮面の者は、悠然と歩みながら、静かな声で言う。


「すまぬな。これが忍びの戦い方なのだ。恨み言は黄泉御門(ヨミミカド)の向こうで、好きなだけ喚くが良い」

「……死んでから文句言えってか? ――ヤ~ダね!」


 ジャスミンは、べーと舌を出すと、右手の無ジンノヤイバを真っ直ぐ突き出した。その鍔元から、マゼンタ色の光が迸り、一振りの刃と化し、仮面の男の胸元目がけて一直線に伸びていく。

 が、光の刃が仮面の男に届く直前で、蝋燭の火のようにかき消えてしまう。


「くそっ! ……ここでまた――」


 ジャスミンは思わず舌打ちし、仮面の男は、彼の様子を見ると軽く頷いた。


「なるほど……察するに、そのけったいな桃色の光には、()があるようだな」

「……底?」

「要するに、桶の水と同じだ」


 仮面の者は、ジャスミンの持つ無ジンノヤイバの柄を直刀で指し示しながら、言葉を継ぐ。


「桶に溜まった水は、使えば使う程減っていく。それと同じように、その武器の力の源には限りがあって、使えば使うほど消耗していく。その内、光自体を発生させ、実体を保つ事すらできなくなるのではないか? ――そのように」

「……ご名察」


 無ジンノヤイバの特性と弱点が、早くもバレた。ジャスミンは、思わず苦笑いを浮かべる。


「……さすが、戦闘のプロだね。あっという間に見透かされちゃったよ……」

「不便なものだな。確かに、伸縮自在、剣にも盾にもなる――その柄は、持ち主(貴様)にとっては便利で、こちらとしては厄介極まるものだが……。光の源が枯渇してしまえば、ただの柄……」


 そう呟くと、自分が手にした漆黒の直刀を愛おしげに撫でた。


「伸びも形を変える事も出来ないが……某の忍刀の方が、ずっと役に立つ」

「……」


 そんな仮面の者の言葉にジャスミンは歯噛みし、彼にしては珍しい、余裕の欠片もない表情で睨みつける。

 そんな色事師の様子を、仮面の奥の瞳で冷酷に見据えながら、仮面の者はユラリと右手に忍刀を構え、左手にクナイの束を挟み込んだ。

 そして、静かな声でジャスミンに告げる。


「……では、そろそろ終わりにするとしよう。覚悟を決めよ……色事師」

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