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契約と雇用条件

 アザレアが立ち去った後、牢内では、誰も口を開かなかった。

 いや、口をきく気力もなくなったと言うべきか……。

 ヒースは石壁にもたれかかり、パームは落ち着かない表情で、チラチラとふたりの様子を窺い――そしてジャスミンは、鉄扉に背を預けた格好でずっと項垂れたままだった。

 しばらくの間、重苦しい沈黙が続いたが、突然、項垂れていたジャスミンが顔を上げた。


「……あーっ! もう、考えるの止めたっ!」


 決然とした表情でそう叫ぶや、自分の頬をひっぱたいた。


「じゃ――ジャスミンさん? どうしたん――」

「オッサン! この牢、今すぐ出るぞ! 手ぇ貸せ!」


 ジャスミンは、牢の奥で巨体を丸めて蹲るヒースに向かって叫んだ。

 ヒースは、不機嫌そうな顔をして、ジロリとジャスミンの目を睨みつける。


「――面倒くせえ」

「は――? 何でだよ、オッサン?」


 ヒースの口から出た言葉に、ジャスミンは唖然として問い返す。

 ヒースは、興味なさそうな態度で、大きなアクビをした。


「別に急ぐ事もねえだろ。どうせ1時間経てば、閂が焼け落ちて、この『臭い・汚い・クソ狭え』の3K牢屋からは出られるんだろ? じゃあ、待ってればいいだろうが。――ていうかよぉ」


 そこまで言うと、口の端を歪め、皮肉げに彼を見下しながら、ヒースは言葉を継いだ。


「俺とお前らは、雇用関係にある訳でも無えし、ましてや、仲間っつーような、ウェットな関係ってワケでもねえ。ただ、進む方向が同じだった――それだけの縁だ。お前に指図される謂れはねえよ」

「そんな……ヒースさん! それは……そんな言い草は、ヒドいです……」

「知るか」


 ヒースは、パームの言葉を一笑に伏した。


「俺は、傭兵だぜ。契約もしていないヤツの命令に従う気は無えよ。――その代わり、()()()()()()()()()()()()()()()()()けどな」

「ひ……ヒースさん……」

「……ははあ、なるほどねえ」


 ヒースの言葉に、失望した表情を浮かべるパーム。……そして、彼とは対照的に、ピンときたという顔になったジャスミン。

 彼はニヤリと薄笑みを浮かべる。


「――オッサン、さっきの言葉をそっくりそのまま返すぜ。――面倒くせえなあ、アンタ」

「――さて、何の意味だ?」


 ヒースも、そう応じながら口角を上げた。その口の端から、獰猛な熊を思わせる犬歯が覗く。

 ジャスミンは、薄笑みを浮かべたまま頷いた。


「じゃあ、ここで、俺がアンタを()()()()()()()、アンタは俺の言う事に従ってくれるって事で問題無いよな?」

「……まあ、そういうこった」


 ヒースは、含み笑いを噛み殺しながら頷いてみせた。


「おーけーおーけー! アンタを、現時刻からの24時間限定で雇いたいんだが、受けてくれるかな?」

「――報酬は?」

()()()()で、35万エィン!」

「――55」

「いやいや! そりゃ、いくら何でも高すぎる! ……42!」

「――話にならねえなぁ」

「ぐ……47!」

「おいおい、みみっちく刻むなよ、色男。――『天下無敵の色事師』サマってヤツは、そんなにみみっちいモンなのかい?」

「……あー! 分かったよ、キリ良く50! これで頼むよ、大将~!」

「…………」


 ヒースは、ジロリとジャスミンを一睨みし……二カッと破顔した。


「しゃあねえなぁ。今までの縁に免じて、金額()それで呑んでやるぜ」

「お、さすが大将! 図体だけじゃなく、器もデカい! じゃあ、これで契約成り――」

「――但し!」

「へ?」


 ヒースは、浮かれるジャスミンを鋭い言葉で制して、言葉を続けた。


「俺からふたつ条件を付けるが、いいか?」

「――『一晩付き合え』とかじゃなければ」

「アホ。俺にはそんなシュミはねえよ」

「そいつは良かった……」


 満更、冗談でもなさそうに胸を撫で下ろしてみせるジャスミン。

 ヒースは「話の腰を折るなよ」と苦笑して、話を継ぐ。


「ひとつは――俺に“銀の死神”と戦わせる事」

「それは――もちろんオッケーだよ。寧ろ、是非ともこっちからお願いしたい」


 即答するジャスミンに対し、満足そうに頷くと、ヒースは言葉を重ねる。


「――じゃあ、もう一つの条件はな」

「……」


 ヒースの条件とは一体――ジャスミンは緊張の面持ちで、ゴクリと生唾を呑み込む。

 そして、数瞬の時間をおいてから、ヒースはニヤリと笑いながら言った。


「あの、カルティンのイカサマのタネを俺に教えろ。――いいな、『天下無敵の色事師』よ」

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