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送別と惜別

 ――それから数日が過ぎ、ジャスミンたちがファジョーロの村を旅立つ日がやって来た。


「この度は……誠にありがとうございました!」


 一歩前に出た村長が、そう言って深々と頭を下げると、その後ろに居並ぶ村人たちもそれに倣った。


「あ……いえ、当然の事をしたまでで……どうか頭を上げて下さい」

「いやいやぁ、大した事……あるケド♪ 今回の事を叙事詩か何かにして、石碑か銅像でも建ててくれてもいいんだよ~」

「ちょ、ジャスミンさん?」

「……台無しよ、あなた……」


 謙遜の“け”の字もないジャスミンの浮かれた態度に、慌てるパームと呆れるアザレア。ヒースは、興味無さげに顎髭を抜きながらアクビを噛み殺す。


「それにしても、もう少しごゆるりとなさって戴いても構いませぬのに……。ウチの娘たちも、たいそう悲しがっておりますぞ」


 村長は、残念そうにジャスミンを見る。

 その言葉を聞いたジャスミンは、つと村長の視線から目を逸らしながら、口の端をひくつかせて笑う。


「い、いやあ……ま、悪くないところではあるんだけどさ。何も無さ過ぎて退屈……あ、いや、やる事があるからさ、俺たち」

「……っていうか、毎日、村長さんの娘に付きまとわれて大変だったからね、ジャス……」

「……僕にもです」


 クスクス笑いながら、パームの耳元で囁くアザレアに渋面を作るパーム。


「あら……まあ、かわいいもんね、パームくんは。――大変だったでしょ、グイグイ来られて」

「ええ……まあ。……て、そういうアザレアさんはどうだったんですか? 若い男の人が沢山来たりしたんじゃないですか?」

「来たけど、一睨みしてニッコリ笑うと、顔を引き攣らせながら離れていってくれたわよ」

「……あ、そうですか……」


 清々しい笑顔を向けられたパームは底知れぬ圧を感じ、口を噤んだ。

 そんなふたりのやり取りにも気付かぬ様子で、村長は顔を曇らせながら話を続ける。


「それにしても、あのダリア傭兵団の所へですか……。かなり危険な組織だと、風の噂で聴いておりますが……」

「ま、今回の湖賊も中々だったけどね」

「――寧ろ、あの水龍どもより骨が無いと、張り合いが無えけどな」


 ヒースが、口の端を歪めて、野卑な笑いを浮かべた。


「――ま、向こうには(しろがね)の死神が居るから、退屈はしねえで済みそうだがな」

「……は、はあ……」


 村人たちは、ヒースの言葉に引き攣った表情を浮かべる。


「――ま、水龍を従えた魔獣遣い(ビーストテイマー)相手にひけを取らなかった俺たちだしな。何とかなるんじゃないかと思うよ」


 ジャスミンはそう言って、二カッと微笑(わら)ってみせた。


「じゃ、ジャスミン様~っ! お慕いしております~!」

「どうぞ、お体にお気を付け下さいまし~」

「全てが終わったら、またこの村に戻ってきて下さいませ……わたしたちは……ずっとお待ちしておりますわ!」

「う……うわわわっ! な、何だ、いきなりぃ!」


 感極まった村長の三人娘が、一斉にジャスミンに抱きついてきた。バランスを崩したジャスミンが、地面に引き倒される。

 それを契機に、村の女たち(40代オーバーズ)が、軛を放たれた暴れ牛の集団の如く、ジャスミンの許へと殺到する。


「ジャスミンさ! 無理すんでねえぞ!」

「オラたちが待ってるかんな! 必ず(けえ)ってくるんだど!」

「ウチの孫、3歳だけど、嫁にもらってくれないだかぁ?」

「わ、分かった! 分かったから……ちょっと落ち着いて……。や、止め……口は止めて! せめてホッペ――ちょ、お婆ちゃん、ドコ触ってんのぉぉぉ! ――あああああ~っ!」


 人だかりの中心で切実な悲鳴を上げるジャスミン。思い切り手を伸ばし、必死でアザレアたちに助けを求める。

 ――が、


「……さ、パーム君、ヒース。何だか、ジャスは()()()()()のようだから、先に行ってましょう」


 アザレアはニッコリ笑うと、踵を返して村の出口へ向かってスタスタと歩き出した。


「あ……あの、アザレアさん……。ジャスミンさんは……」

「行・く・わ・よ、パームくん」


 慌ててアザレアを呼び止めようとするパームだったが、彼女が浮かべた寒気すら感じる表情を見た瞬間、


「…………はい!」


 その顔を恐怖で引き攣らせながら頷く。


「お……おーい! ちょ、待てよ! ……見捨てないで……!」


 誰かさんの焦り声が、女だかりの真ん中で聞こえたが、アザレアは振り返らずに手を振って言った。


「じゃあね。せいぜい()()()()()お別れを惜しんでね。――私達は、先に行ってるから!」

「おいいいっ! アザリー……待って……! ――パームぅ、代わってくれえ! ――オッサン……た、助けて……!」

「……何、ナチュラルに身代わりにしようとしてるんですか……」

「――悪ぃな、色男。よく言うだろ? 『泣く子と地頭と……怒った女には勝てない』……ってよ。つー事で――せいぜい頑張んな~」


 そう言い捨てて、二人は、足早に去るアザレアの後を追った。

 颯爽と村を立ち去る彼らの背後から、悲痛な叫び声が聞こえる。


「ちょ、マジで行くのかよっ! いや、後生だから助けて……あ、だから、ドコ触ってるんだって……! ちょ! シャツを脱がすなって――ば、婆さん、首筋を舐めるなぁああっ! ――ああああああああっ!」

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