表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混合世界の復興記  作者: 晃毅
第一章 異変前〜異変後一年
1/1

軍曹の過去語~第356師団の悲劇

ーーーーーーーーーーーー

【小林軍曹】

・地球出身

・第356師団所属

・仲間思いで人望が厚い

・下の名前は晃毅


【山内曹長】

・軍曹の上官

・第356師団所属

・厳しいが、それと同じくらい面倒見がいい


【高丘上等兵】

・軍曹の部下

・第356師団所属

・格闘術の評価は低いが、精密射撃の実力はトップレベル


【中村上等兵】

・軍曹の部下

・第356師団所属

・全てにおいてそこそこの評価を取るオールラウンダー

ーーーーーーーーーーーー



「てやっ!」「とうっ!」



熱気に包まれた訓練所に鉄のぶつかり合う音と訓練に励む男達の声が響き渡る。



日本帝国第356師団は要人の護衛や敵指揮官の暗殺など特殊な任務を行う為に秘密裏に結成された少数精鋭部隊。



そして、ここは第356師団の訓練所である。



「終了!休憩だ」



訓練の監督をしていた無精髭を生やした男、山内曹長が部下達に休憩を告げる。



「曹長…真剣での訓練はやめましょうよ。いくらなんでも危な過ぎますって…」



曹長に文句を言うのは高丘。剣術が不得意な彼は相手が剣を振るう度に死ぬ思いをしているのだ。



「訓練とは実戦を想定して行うものだ。貴様はオモチャの剣で戦場に出るつもりなのか高丘上等兵」



「そういうわけでは…軍曹も何とか言ってくださいよ!」



『そう言われても曹長は正論しか言ってないからなぁ。訓練で死にかけてる奴が戦場で生き残れるはず無いって事だろう』



高丘に無慈悲な言葉をぶつけるのは小林軍曹。仲間思いで人望が厚い彼は上官からも部下からも高い評価を得ていた。



「軍曹まで……僕の担当は狙撃なのに…」



「狙撃兵だからこそ近接技能が必要なんだよ?」



高丘に追い打ちをかけるのは中村。高丘の訓練相手であり、何でも無難にこなせるオールラウンダーだ。



「接近されたとき狙撃銃だと何も出来ないだろ。そういう時の為に剣術や格闘術が必要なんだよ」



『満点だ中村上等兵。次の曹長はお前かもな』



「あざっす軍曹」



軍曹がいつもの軽口で中村を褒め立て、曹長に睨まれる。



「ところで、天皇陛下が米国へ戦争を仕掛けるために新兵器を開発したと噂で聞きましたが本当ですか?」



『あぁ、それについては俺もよく知らないのだが…人間を化け物に変えちまうとんでもないウイルスを開発したって噂だな』



中村に聞かれた軍曹が憶測を交えながら話始める。



『多分、新兵器っていうのはそのウイルスを爆弾に込めた物だろう。敵国の空中で爆発させてウイルスを撒き散らし……まぁ、この話はもういいだろう。そろそろ訓練再開の時間じゃないか?』



何かを知っているであろう曹長が顔をしかめたことに気付いた軍曹は露骨に話を逸らす。



「はいはいっと……ん?何だあれ?」



訓練を再開しようとした中村が何かに気付き、空を見上げる。



「どうしたんですか?」



「うーん、今、あっちの方に何か落ちて…っ!」



「伏せろ!」



その直後、中村が指を指した方向から光が弾け辺りは悲鳴と爆音に包まれた。



数分後、光は収まり軍曹達は目を見開く。



「なんだよ…こいつは…」



そこには体全体を腐らせた人間……否、化け物へとなれ果てた同士達が立っていた。



「ちょっと、どうなってるんですか!?」



『取り乱すな!早く逃げ…危ない!!』



取り乱す高丘の背後に、化け物が襲いかかる。






ベキベキッ






『そう…ちょう…?』



軍曹が戸惑いの声をあげる。曹長が高丘を庇って化け物の攻撃を受けたのだ。

化け物と化した兵士達は力も強化されているようで、動く度に曹長の骨が悲鳴をあげていた。



「曹長!どうして!?」



「どうしてもこうしてもあるか!部下を守るのが上官の役目だ!」



高丘の問いに対して曹長は痛そうに顔をしかめながら答え、軍曹に向き直る。



「軍曹!さっさと高丘と中村を連れて逃げろ!運よく《バイオオーガニックウェポン》の脅威から逃れたのはお前達だけだ!」



『そんな…!曹長、すぐ助けます!』



剣術の訓練中の為銃器は装備していないが、軍刀ならある。しかし、軍刀を用いてもなお曹長から化け物を引きはがすのは困難に思えた。



「馬鹿者!そんなことをしていたら他の《ゾンビ》が来てしまう!それに、私は血を流しすぎた。どのみちもう助からん!」



「曹長…でも…!」



「お前のエゴに高丘と中村を巻き込むな!《部下を守るのが上官の役目》だろう!」



「!!」



常日頃から曹長が軍曹に言っていた「部下を守るのが上官の役目」という言葉。

そして曹長はその言葉通りに部下の高丘を守って見せた。

ここで曹長を助ける為に部下を死なせてしまっては、曹長にとても顔向けなど出来ない。



「軍曹、これが上官命令だ。《部下達を守ってくれ》」



『…はいっ!』



「そ…そんな…」



「曹長…」



『何をしている!早く逃げるぞ!』



覚悟を決めた軍曹は未だに躊躇している高丘と中村を連れて走り出す。

彼らは最後に一度だけ曹長の方を振り返り…そしてそのまま消えていった。





ベキベキッ





「はぁ…意地悪な言い方をしてしまったな…」



軍曹達が立ち去った後、曹長は独り言を呟く。



「でも奴は仲間思い過ぎる。こうでも言わなきゃ逃げなかっただろうな…」



曹長はフッと小さな笑みを零し、そして…



彼らと同じ、化け物(感染者)へと姿を変えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ